ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.59

【演奏に点数をつけるということ

バイオリニストとして、つい数年前まではコンクールに参加して審査を受ける側だった私ですが、この2022年、依頼を受けて審査員の席に座る機会が増えました。コンクールといえば、音楽家たちはみな命を削って挑むもの。私も厳しい練習の日々による心労や緊張からか、コンクール前には熱を出すこともあったものです。ひとたび出場が決まれば審査の日まで一意専心、何度も何度も繰り返し練習し、膨大な時間と精神力を費やします。そしてたった一回きりの演奏を審査される、とても厳しい世界です。そんな過去の自分を振り返りながら審査員席に着くと、この一瞬に全てを賭ける彼らを前にして、なんだか私の方が緊張してしまいました。

芸術に点数を付けるのは、大変難しいことです。何を基準につけたらよいか?曲の難易度を判断する程度ならいざ知らず、表現の方法には十人十色にそれぞれの良さがあり、絶対的な評価などあり得ません。また、技術面だけを取っても、難易度の高い曲を頑張って演奏して下さると点数は上げやすいかもしれませんが、難易度が上がるだけミスが出る可能性も高くなります。難しい曲をとてもよく仕上げて演奏されていても、たった一度でもミスがあれば、見逃すわけにもいきません。それ以外のパートがどんなに上手でも、一瞬のミスで減点せざるを得なくなるのです。

 

音楽を続けていくためには様々な才能が必要です。まずは努力をする才能に始まり、細かいテクニックを器用にこなす才能、音楽の全体の流れをつかむ才能、音色の美しさ、表現の才能など色々あります。それを点数に置き換える作業をしていくのが審査をするということです。いつも審査中に聞いた演奏を反芻しては何度も点数を書き直し、最後の最後まで悩みます。

また、コンクールによっては講評を依頼されることもあります。演奏者一人一人に対し、審査員としてコメントを送るのです。この講評も難しいもので、改善点をたくさん書き連ねると、それを読んだ人は一杯ダメ出しされて否定されるような気持ちになるかもしれません。しかし書く側としては、むしろ「この人を応援したい!」とグッと来た時にこそ、情熱的に、たくさんのアドバイスを書きたくなるものなのです。そのことが伝わっていればいいな、とは思うものの…私はコンクールでたくさんの改善点を挙げられると、しばしば落ち込んだものです。

 

芸術は、本来点数に出来ないものです。これからコンクールに挑戦する生徒さんたちは、コンクールの結果に一喜一憂しすぎず、自分の表現を貫き、高みを目指していってほしいと思っています。

12月は、多くの現代音楽を演奏する機会に恵まれました。

一つ目は今年生誕100年を迎える、ギリシャの作曲家クセナキス。作曲にコンピュータや図形を用い、音楽界に大きな影響を与えました。会場の東京藝術大学奏楽堂は卒業試験以来の演奏で、美しいパイプオルガンや豊かな残響を懐かしい気持ちと共に味わいました。

プログラムには、日本の箏と尺八を用いた曲もありました。初めて聴く西洋の作曲家による邦楽の現代音楽では、邦楽ならではの音色が意図的に多用されており、大変興味深い響きでした。

10日には、今年2回目の後援会主催のコンサートを行いました。ピアニストの宇根美沙惠さんと、冬をテーマに選曲したプログラムを演奏しました。

シュニトケ作曲の”Still Night"は、皆さんがよく知っているクリスマスの歌「きよしこの夜」のパロディで、取り上げた中でもユニークな一曲です。

最初は有名なメロディがバイオリンのソロで静かに歌われますが、曲が進むにつれて不協和音が響くようになります。最後には、ヴァイオリンの調弦を弾きながらずらして演奏する技法でグロテスクな雰囲気で終わり、まるでクリスマスの美しい絵画が、徐々に溶け落ちていくような情景が浮かびます。

コンサートには近代以降の作品を初めて聴かれる方もいらっしゃいましたが、解説があったので楽しめた、と嬉しいお言葉をいただきました。

17日は大東文化大学でレクチャーコンサートがありました。曲や楽器について、いつも以上に丁寧に解説しながら、宇根美沙惠さんとクリスマスらしい華やかなプログラムをお届けしました。バイオリンの演奏を初めて生で聴いたという学生さんも多かったようですが、集中して耳を傾けてくださり、暖かい雰囲気のコンサートでした。

22、23日は、現代音楽を多く取り上げたコンサート「ヒュプノス」に出演しました。

齊藤一也さんと共演したプロコフィフとプーランクのソナタに加え、薮田翔一さん、久保哲朗さん、會田瑞樹さんによる作品の新作初演を行いました。

世の悲しみや闇、風刺をテーマにしたコンサート。美しく心地よいだけでなく、音楽は人々の心に強い感情を訴えかけることができる力もあります。このような世界情勢の中で、重要なテーマであるように感じ、音楽ならではの言葉で伝えられるよう想いを込めて演奏しました。

演奏納めとなった28日は、一年ぶりの演奏となるホール、ムジカーザにて、二台ピアノの夕べにゲスト出演しました。

悪魔をテーマに、タルティーニの「悪魔のトリル」や、悪魔に魂を売ったと言われるパガニーニの、まるで悪魔に取り憑かれたかのような作品を演奏しました。

イラスト作家のゆうきよしなりさんが曲に合わせて描いて下さった絵を壁に映し、視覚からも想像を掻き立てられる公演でした。

ここからは来年のコンサートのご案内です。年明け最初のコンサートは、14日に渋谷美竹サロンにて、モーツァルト ヴァイオリンソナタ全曲演奏会シリーズの、いよいよ最終回です。

ヴァイオリン作品で辿ったモーツァルトの生涯もついに晩年に差し掛かり、ますます深みを帯びた彼の音楽をピアニストの川口成彦さんと共に音に紡ぐのが楽しみです。

 

19日は、一味違った公演に出演します。そこでは、現代アートと現代音楽が融合します。同年代の画家、作曲家、演奏家のアーティスト達がコラボレーションして作品を作ります。代々木上原のムレスナティーにて、14時開演。新たな世界を是非体験しにいらしてください。

今年一年、皆さまには沢山の応援とご支援をいただき、どうもありがとうございました。心から感謝しております。

3年ほど前に8年の欧州滞在を終えて帰国し、程なく始まったパンデミック。演奏家として難しい日々が続きましたが、周りの多くの素晴らしい方々に支えられ、引き上げて頂きました。

演奏活動は再開されているとはいえ、未だ収束したとは言えない状況ですが、一人の演奏家としてみなさんに、世の中にご恩返しをしていけるよう、これからも日々精進して参ります。

いただいた皆様とのご縁を大切に、来年は今まで以上の「挑戦」の一年としていきたいです。

どうぞ皆さま、良いお年をお迎えくださいませ。

来年も会場でお会いできます日を楽しみにしております!

鈴木 舞&川口成彦モーツァルト・ヴァイオリンソナタ全曲演奏会 最終回 
2023年1月14日(土) 15時開演   
美竹清花さろん(渋谷)地図  
共演:川口 成彦(ピアノ)
詳細はこちら
現代美術・音楽 コラボレーションイベント
2023年1月19日(木)14時開演、12時開場
ムレスナティー 代々木上原 地図
共演:あおいうに、四宮スズカ(美術)
薮田翔一、佐原詩音(作曲)
會田瑞樹(打楽器)、他

鈴木舞、福原彰美 DUOリサイタル
2023年2月5日(日)14時開演
赤坂ストラドホール 地図
共演:福原彰美(ピアノ)
クララ・シューマン、イグーデスマン、ブラームス、他
詳細はこちら
ご予約、お問い合わせ:03 6431 8186(ムジカキアラ)
鈴木舞 Valentine Concert ~砂の絵本 サンドアートとともに~
2023年2月12日(日)15時開演
蕨市立文化ホールくるる(埼玉県)地図
共演:對馬哲男(ヴァイオリン)木下雄介(ヴィオラ)山澤慧(チェロ)
モーツアルト、ドヴォルザーク、他
詳細はこちら
ご予約、お問い合わせ:048 446 8311(蕨市立文化ホールくるる)
道コンサート
2023年2月19日(日)13時開演
岡山市民会館大ホール 地図
共演:米川敏子(箏)、柳橋泰志(チェロ)
ドッグ フレンドリー コンサート
2023年2月26日(日)第一部13:30 第二部18:00開演
ピアノカフェ・ベヒシュタイン(御成門)地図
共演:則行みお(ピアノ)
ペットやお子様にもお越しいただけます。
(動物が苦手な方はご遠慮ください)
一般:5500円、小学生:2500円 ドリンクバー付き
お問合せ:0364358548
お問い合わせはこのメールにご返信ください。

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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