ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.50

本当の姿

 

まだ寒さの残る日もありますが、徐々に暖かい日も増えて春の訪れを感じられる季節になりました。ヨーロッパの冬は寒さが長く厳しいので、陽気が春らしくなってくると街中に薄着の人が急に増えるのにいつも驚かされます。

日本の春は、なんといっても桜の季節ですね。先日、まだ蕾が膨らみかけの上野公園を散策しながら、東京都美術館で開催されている「ドレスデン国立古典絵画館所蔵フェルメールと17世紀オランダ絵画展」に行ってきました。お目当ては、4年の歳月をかけて修復され、第三者によって塗りつぶされていたキューピットが現れた、フェルメールの『窓辺で手紙を読む女』です。

私の大好きな絵画のひとつで、現地ドレスデンで修復前の状態を観賞したことがありましたが、修復された姿を見てかつての印象が完全に覆されました。

電話やインターネットない時代、手紙は遠くにいる人とつながりの持てる唯一のツールでした。届くまでの時差のことも考えると、殺風景な部屋の窓辺で手紙を読む女性の姿に、私は孤独の表現を感じとっていました。

修復を経たこの作品には、愛の象徴であるキューピットがとても大きく描かれていて、手紙とキューピットどちらがモティーフなのか惑わされてしまうほどその存在感は大きなものでした。

このキューピットには、「正直で誠実な愛だけが嘘や偽善に打ち勝つことができる」という意味が込められているそうです。つまり、孤独とは正反対の、歓びと自信に満ちた絵だということが分かったのです。

音楽でも、19世紀から20世紀前半までは、バロックや古典の作品を時代の趣味に合わせた解釈を書き加えた楽譜で演奏するのが当たり前でした。しかし20世紀後半からは作曲者のオリジナルに基づいた原典版の使用が広まり、作曲家の意図に近づき、それを表現しようとするようになりました。フェルメールを観賞しながらふとそんなことに思いを巡らせました。

3月は、まずミュンヘンで共に学んだピアニストの尾崎美空さんと、埼玉と横浜でコンサートを開催しました。「ドイツとスラヴの名曲」と「ミュンヘンからの風」というタイトルで、それぞれ異なるプログラムを準備しました。プログラムの相談をしていた時には、まさか東スラヴがこのような状況になるとは思ってもいませんでした。

祖国ポーランドの、ロシアの支配に対する武装反乱の最中に作曲されたショパンの作品や、ウクライナ生まれのロシア人ヴァイオリニスト、ミルシュタインの編曲した作品を、複雑な気持ちで、そして平和への祈りを込めて演奏しました。

続いては、新作4曲が一度に初演されるコンサートに出演し、新田ユリさんの指揮で、久保哲朗さん作曲のヴァイオリン・コンチェルトのソリストをつとめました。
当たり前のことですが、新曲には参考になる音源がありませんので、作曲者、指揮者、オーケストラとともに試行錯誤しながら全体像を探ってゆくことになります。こうした、未だ見ぬものを形にしてゆく作業が、新曲初演の醍醐味とも言えます。
産声をあげたばかりの作品に熱心に耳を傾ける聴衆の姿とても印象に残ったコンサートでした。

このほか、港区立伝統文化交流館主催の「伝統文化フェスティバル」に参加し、日本舞踊とクラシックバレエとの共演という珍しい企画で、クライスラーとイザイの無伴奏作品を演奏しました。

こちらのクライスラーの作品は、東京都の芸術文化支援事業「アートにエールを!」に提出したもので、「文化の架け橋」の映像作品ははこちらからご覧いただけます。

3月最後のコンサートは、美竹さろんにて實川風さんとフランス・プログラムを共演しました。

前半に演奏したドビュッシーとプーランクの作品は、ともに死や戦争と深く関係している曲だったこともあり、会場が重い沈痛な雰囲気に包まれてゆくのを演奏しながら感じました。きっと、作曲家が曲に込めた想いをお客さまと共有することができたのだと思います。

かわって後半は、ラヴェルの色彩豊かな音楽2曲で締めくくり、明るく華やかな空気で終えることができました。

4月は日本でのコンサートはありませんが、南米チリでいくつかのコンサートに出演します。

5月には国内でのコンサートがございますので、会場で皆様にお会いできることを楽しみにしております。

三越カルチャーサロン ランチコンサート
2022年5月27日 11:45~
Q.E.D.CLUB(中目黒)地図
共演:齊藤一也(ピアノ)
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第五番「春」、他
お問い合わせ先:03-3274-8595
お問い合わせはこのメールにご返信ください。

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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