ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.54

【トランジットの罠

約3週間滞在したチリに別れを告げ、乗り継ぎのために北米ニューヨークのJFK空港に降り立ちました。

日本とチリの間には直行便が飛んでいないため、どうしてもどこかで乗り継ぎが必要なのですが、事件はここで起こりました。

イミグレーションが大混雑していて通過するのに3時間もかかってしまい、ようやく搭乗ゲートに到着した時には、乗り継ぐはずの便は私を置いて日本へ飛び立ってしまっていたのです・・・。

こうして次のフライトを待つために、思いがけずニューヨークで4日間を過ごすことになりました。

ニューヨークは初めての滞在でした。

スイス留学時代に一緒に室内楽を組んでいたフランス人の友人がたまたまニューヨークに住んでいたので、会えたらと思い連絡したら、なんと家に泊めてもらえることになりました。

彼女は現在、アメリカのクラシック音楽界でライターとして活動しています。

5年以上も会っていませんでしたが、ひとたび会って話し始めると、まるで留学時代に戻ったかのようで、時間の流れを忘れるような不思議な感覚になりました。

彼女の家に到着して荷物を置くやいなや、行きたい美術館があるとのことで、同行することに。

観たがっていたものは、なんと蜘蛛の巣の展示(!)でした。

私は子供の頃に読んだファンタジーの影響で、昔から蜘蛛は好きなので、喜んでお供することにしたのです。

トマス・サラセーノというアーティストによる、蜘蛛の巣がライトアップされたアートは、繊細で細やかな巣の糸が光に反射して、自然が生んだ飴細工のように見え、それぞれの巣の一期一会の形状がとても神秘的でした。

その他、ビニールのごみで作られた風船のようなトンネルや、ホコリを使ったアートなど、環境問題や自然をテーマにした美しくもユニークな展示が多数あり、地球と人間、芸術の関係を考えされられました。

翌日は、彼女の家の近所(セントラルパークや5番街あたり)を散策しながら、話に花が咲きました。

ライターの仕事に就く以前、彼女はニューヨークで幼児教育に携わっていたそう。フランスで生まれ育った彼女からすると、ニューヨークのような大都会の、貧富の差が激しい社会での教育事情は、ヨーロッパとは大きく違い驚きの連続だった、という話が印象に残っています。

公的な機関での音楽教育の場では、比較的貧しい家庭の子供が多いため楽器が貸し出されるそうなのですが、ヴァイオリンの切れてしまった弦(安価なものでは数百円)を買い換える余裕がない、といった理由でクラスをやめざるをえない生徒もいた一方で、プライベートの音楽クラスでは裕福な家庭の子供が多く、過剰に肯定されて育ち、まるで王様のように振る舞う子供たちに困惑した、という話も聞きました。

アメリカの音楽界についても、いろいろな話を聞きました。ヨーロッパでは個性、深い表現力や人間味が演奏に求められるのに対して、アメリカ、ことニューヨークでは、華やかなパフォーマンスやパーフェクションが好まれるのだといいます。これは私が普段からヨーロッパと日本の傾向の違いとして感じていた事で、共感するものがありました。

その日の夕方、フランスに一時帰国する彼女を見送りました。出発前の忙しい中、突然やってきた私を快く迎え入れ、多くの時間を割いてくれた彼女は「またいつでも泊まりにきてね。ニューヨークにも、フランスにも!」と最後まで温かく親切で、彼女の懐の深さと別れの名残惜しさに、思わず涙ぐんでいました。

ニューヨーク滞在後半のお話は、また次回に綴りたいと思います。

それでは、日本での演奏活動についてご報告いたします。

7月は、河口湖 音楽と森の美術館で福原彰美さんと4回のコンサートを行いました。恒例のストラディヴァリウスと新作楽器の聴き比べクイズでは、ほとんどのお客様がストラディヴァリを聴き分けてくださいました。

普段は展示されている、あまり弾かれていないストラディヴァリウスを使用してのコンサートでしたが、4公演を通じて弾き込んでいくうちに、音色の幅がどんどんと広がってゆき、楽器が「生き物」だという事を改めて感じました。

福原さんとは、クラシック音楽専門のインターネットラジオ「OTTAVA」に生出演しました。パーソナリティの斎藤茂さんが上手に話を引き出してくださり、1時間半が楽しいお喋りであっという間に過ぎてしまいました。過去に演奏を聞いてくださったリスナーさんから、放送中にリアルタイムでメッセージをいただけたのは、嬉しいサプライズでした。

番組の中で、福原彰美さんと組むデュオの名前を募集しました。採用された方にはささやかなお礼をご用意しています。素敵なネーミングを思いつきましたら、是非OTTAVAまでご応募いただけましたら嬉しいです!

 

福原さんとのデュオ・コンサートは、826日にも紀尾井町サロンホールにて予定されています。環境問題に配慮した公演で、私たちも多様性を象徴する民族的な曲、黒人女性作曲家の作品や、自然の循環を意識した曲など、SDGsをテーマにプログラムを組みました。みなさんどうぞお運びください。

7月13日には、美竹清花さろんでモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会の第4回でした。

早々にお席が完売し、たくさんのお客さまに聴いていただけたことをとても嬉しく思っています。

年代を追って変化するモーツァルトの心の内、ずっしりと重みを増した作曲者の情感を、ピアニスト川口成彦さんといかに表現するか、心を尽くしました。次回はいよいよ最終回で、公演は来年114日の予定です。

8月は、先程紹介した福原さんとのデュオのほかに、山梨県の勝沼で「ぶどうの丘で音楽とワインと夜景の1日」に出演します。第二部にて内田麒麟さん作曲のピアノ・トリオ第1番と新作の第2番(世界初演)を演奏する予定です。夏休みに是非お出かけください。

 

会場でみなさまとお目にかかれますのを楽しみにいたしております!

ぶどうの丘で音楽とワインと夜景の1日!
2022年8月11日(木祝)第二部18:30開演
ぶどうの丘イベントホール(甲府)地図
共演:内田麒麟(チェロ)、小林侑奈(ピアノ)
内田麒麟:ピアノトリオ、他
詳細はこちら
チャリティ・デュオ・リサイタル
2022年8月26日(金) 19時開演
紀尾井町サロンホール(麹町、永田町)地図
共演:福原彰美
一般5000円 (入場料のうち¥1,000は、東日本大震災の被災地で創設された「岩沼ヴァイオリンjr.倶楽部」で子供たちに貸与される3/4分数ヴァイオリンの購入費に充てられます。)
詳細はこちら
チケットはこちら
デュオリサイタル
2022年9月4日(日) 15時開演
美竹清花さろん(渋谷)地図
共演:森本隼太(ピアノ)
モーツァルト 、プロコフィエフ 、シマノフスキ
鈴木舞・福原彰美 DUOリサイタル
2022年11月9日(水)
18時開場、19時開演(プレトークあり)
銀座王子ホール 地図
共演:福原彰美(ピアノ)
お問い合わせはこのメールにご返信ください。

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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