ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.56

ニューヨークで遭遇した差別問題

今月は、前回のニューヨーク滞在の続きからお話ししたいと思います。

カーネギーホールに続いて、今度はメトロポリタン・オペラに《蝶々夫人》を観に行きました。

イタリアの作曲家プッチーニが、長崎を舞台にしたアメリカの小説を元に作曲したオペラです。

芸者の蝶々夫人はアメリカ海軍兵のピンカートンと結婚しますが、ピンカートンはアメリカに帰ってしまいます。健気にピンカートンを信じて帰りを長崎で待っていた蝶々夫人ですが、ピンカートンはアメリカで他の女性と結婚していたことを知って絶望し、子供を残して自殺してしまう、というストーリーです。

一流のアーティストたちによる完成度の高い演奏により、どんどん物語に引き込まれ、オペラが終わった時には、悲しみで胸がいっぱいでしばらく放心状態になりました。

音楽の、人の心に訴える力の大きさを体感した舞台でした。

ところどころに、さくらさくら、君が代などの日本のメロディが挿入されています。

日本を舞台にしたオペラで、日本人としては演出も気になるところです。というのは、やはり演出家の日本に対するイメージが如実に反映するからです。

以前、蝶々夫人の子供の衣装の背中に大きく「幼虫」と書かれていた演出があった、なんて冗談のような話も聞いたことがありますが、こちらの演出は色鮮やかな着物やぼんぼりが出てきたり、さらに人形浄瑠璃のアイディアを取り入れていたりしていて、日本のことをよくわかっている演出家だと感じました。

上演中には、日本人やアジア人に対する差別的なセリフや表現に観客から笑いが起きたりと、少し戸惑う事もありましが、それも含めて貴重な経験となりました。

チリで共演したピアニストのDanorが、ニューヨークに住む同年代のヴァイオリニストを紹介してくれました。急な話でしたがすぐに時間を作ってくれ、会ってみるととても気さくな方ですぐに仲良くなり、ウェストヴィレッジを案内してもらいました。

言うまでもありませんが、アメリカは人種の坩堝であり、昔から人種差別が社会問題になっています。悲しいことに、私もオペラの観劇中にその片鱗を感じました。

外国人が少ない国や地域において、外国人が目立ってしまい区別から差別が起こってしまうことは想像に難しくありません。しかしニューヨークのように様々な人種が入り混じっているような場所でも強い差別意識が生まれていることを、街を歩きながら不思議に感じていました。

その疑問を彼女にぶつけると、少し考えてからこう丁寧に答えてくれました。

 

外国人や移民の家庭の多くは裕福でなく、十分な教育が受けられていない。そのため企業に雇われる際に、リスク回避のため、実際の能力とは関係なく国籍だけが理由で白人よりも低い賃金が設定される事が多い。そしてその子供たちも高い教育が受けられず格差が生まれる。こういう悪循環ゆえだろう。

入り混じっているように見えて、彼らの見ている世界や生きている環境は全く別世界だというわけです。人種による差別や格差を解消していく上で、平等な教育がいかに大切か、そして演奏家として私にできることがあるのか、考えさせられました。

また世界のどこかで必ず会おうと約束し、さまざまな想いを胸に、チリ〜ニューヨークの4週間にわたる旅に終止線を引くべく、空港に向かいました。

今度こそ、日本行きの便に無事搭乗できることを期待して!

さて、9月は3度目の共演となる17歳のピアニスト、森本隼太さんとのリサイタルから始まりました。

大きなソナタが3曲もある重量級プログラムでした。

リハーサルでは、彼の若さと凄まじい集中力に引っ張られ、7時間に及んだ日もありました。

期待以上のモンスターっぷりで、曲の魅力とエネルギーを引き出してもらい、まるで音楽の大海原を泳ぎ回ったかのようでした。

ピアノとヴァイオリンのデュオでは、ピアノが旋律楽器であるヴァイオリンに合わせるようなバランス関係になりがちです。

しかし私は、どちらかが合わせるのではなく、アンサンブルによりお互い対話をし、個性の化学反応が起こるような音楽作りを心がけています。本番後に森本さんが「すごく自由に弾けて楽しかった!」と言っているのを聞いて、とても嬉しく思いました。

続いて、山梨で2つの公演ありました。一つ目は清里で小林侑奈さんと東欧プログラム。

メインに選んだルーマニアの作曲家エネスコのソナタは美しいながらも大変な難曲で、準備の段階で一時は心が折れそうになることもありました。

その時、留学時代の友人に「アモイヤル先生なら何て言う? "Just do it"」と励まされたことや、ある指揮者がよく言っていた言葉「やって出来ないことはない」を思い出して一念発起しました。

寝食を削って取り組んだ結果、本番ではエネスコのロマンティックでファンタジックな世界観を噛み締めながら演奏することができました。

二つ目の公演は牧丘町の夢遊苑にて、ピアノトリオの編成で内田麒麟さんの新曲や、ベートーヴェンの「街の歌」を演奏しました。この曲は慈愛と生きる喜びに満ちた美しい曲で、リハーサルではみんなで「美しい曲だね」と感動と幸せを分かち合いながら演奏しました。

この2つの山梨公演の合間に仙台に伺いました。実は、これが私の仙台初上陸でした。

フコク生命さんのスポンサー、日本フィルハーモニーのアレンジで、2つの特別支援学校で弦楽四重奏でのアウトリーチコンサートを行いました。

支援学校での演奏は、実は私自身が中学生の時、演奏家としてデビューをした直後に経験して以来です。

今回の弦楽四重奏のメンバーは、なんと偶然にも全員スイスのフランス語圏に住んだ音楽家たちでした。

私はファースト・ヴァイオリンを担当し、ドヴォルザークやヨハンシュトラウス等の作品を演奏しました。

子供たちは素直な反応をするので、アウトリーチは普段のコンサートとはまた違うシビアさがあります。

演奏が始まると子供たちは全身で喜びを表現したり、一方で、しんと静まり返る瞬間があったりと、一生懸命耳を傾けてくれているのを感じ、音楽を通してポジティブなエネルギーを交換することができ、私の心も浄化されたようでした。

10月は齊藤一也さんと、今年没後30年を迎えるピアソラの作品をメインとしたプログラムをお届けします。2日は埼玉、9日は渋谷のカフェにて演奏します。

渋谷のイープラスカフェではお子様にもお聴きいただけますので、是非ご家族でお運びください。

29日は、山梨にあるパイプオルガンが美しい桃源文化会館で、内田麒麟さん、小林侑奈さんとトリオで、内田さんのトリオを2曲演奏する予定です。

また、11月9日の福原彰美さんとデュオリサイタル(会場は銀座の王子ホール)も引き続き予約を受付しております。フランスの「古き良き時代」の豊かな音楽を聴きに、是非お運びくださいませ。

会場で皆様にお目にかかれますのを楽しみにしております。

鈴木舞&齊藤一也 DUOコンサート
2022年10月2日 14時開演
ギャラリーカフェラルゴ (JR埼京線南与野駅)地図
共演:齊藤一也
ピアソラ:ル・グランタンゴ、他
詳細はこちら
ご予約、お問い合わせ
Tel: 048-749-1721/Mail: cafe-largo@dream.jp
サンデーブランチクラシック
2022年10月9日(日) 12:00開演、11:00開場  
イープラスカフェ(渋谷)地図
共演:齊藤一也(ピアノ) 
ご予約はこちら
お子様にもお聴きいただけます。
お問い合わせ先:03-6452-5424
MYK トリオ@桃源文化会館
2022年10月29日(土)15時開演
桃源文化会館 地図
共演:内田麒麟(チェロ)、小林侑奈(ピアノ)
詳細はこちら
お問い合わせ:yamanashiongaku@gmail.com
Ravelと秋
2022年11月5日(土) 16:30開演
赤坂ストラドホール 地図
共演:會田瑞樹(vib)、白河俊平(ピアノ)他
詳細はこちら
お問い合わせ:que315710@gmail.com
DUOリサイタル
2022年11月9日(水) 18時開場、19時開演(18:15~プレトーク)
銀座 王子ホール 地図
共演:福原彰美
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お問い合わせ:sakata@caap.jp (株式会社 CAP)
INTENSE 001
2022年11月20日(日) 18:30~
song & supper BAROOM(表参道)地図
共演:下地優子(演出)、吉兼加奈子(ピアノ)
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鈴木舞・齊藤一也 with 山梨交響楽団
2022年11月26日(土)14時開演
笛吹市スコレーセンター(山梨県) 地図
プロコフィエフ :ヴァイオリン協奏曲第2番
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2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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