ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.81

表現への道しるべ

演奏家として活動していると、よく「普段どのように演奏のインスピレーションを得ているのですか?」という質問を受けます。私にとって、他の芸術分野に触れることは、音楽表現の重要な源泉のひとつです。コンサートやオペラ、バレエ、美術館での体験は、私の演奏に新たな息吹をもたらします。画集や映像、録音で触れる芸術作品も素晴らしいですが、実際に足を運び「生」の作品に触れることで、新たな発見があり、それが自身の演奏活動への学びやインスピレーションとなるのです。

 

先日訪れたデ・キリコ展では、音楽と美術の密接な関係性を強く感じました。彼の作品における古典回帰の手法は、音楽家にとって身近なストラヴィンスキーの新古典主義を思い起こさせます。伝統を基盤としながらも、新たな解釈を加える手法には、時代を超えた芸術の普遍性が感じられました。

特に印象的だったのは、一見無秩序に見える室内画にも確かな調和が宿っていることです。様々なオブジェクトが散りばめられた画面は、一瞬混沌としているように見えますが、じっくりと向き合うと、緻密な計算と確かなバランスがあることに気付かされます。これは、複雑な楽曲でも基礎となる部分の重要性と通じるものがあります。

デ・キリコの描く無人の広場や長い影は、視覚的な静寂が内面的な対話を促します。それは音楽の休符が生み出す静寂のように、感覚が研ぎ澄まされるようでした。

マネキンをテーマにした作品群も印象的でした。これらの作品は、言葉に表し難い不気味さや恐怖感を醸し出していました。特に、人間の形をしたマネキンが無機質な風景に配置されている作品は、観る者に強烈な印象を与えます。この感覚は、写真や画像では伝わりにくく、実際に作品を目の前にして初めて強く感じるものでした。生の作品だからこそ伝わるこの力強さが、心に深く刻まれました。

この「実物の持つ力」は、軽井沢の安藤美術館で藤田嗣治の作品群を観て、さらに強く感じました。同じ画家の手によるものとは思えないほど、作品によって異なる「気」を感じたのです。特に印象的だったのは、戦争画と他の作品群との対比でした。戦争画には、淡々と事実を描いたかのような、魂が抜け落ちたような印象を受けました。一方で、晩年に描かれた子供たちや猫たちの作品からは愛情の眼差しが感じられ、藤田の多面的な芸術性がうかがえました。

このような作品の「気」の違いは、画集や図録では決して感じ取ることができないものです。生の作品と向き合うからこそ、画家の内なる声が、時を超えて私たちに届くのです。それは私たち演奏家が目指す「生の演奏の力」と通じています。バイオリンの弦が震わせる空気の振動が聴衆の心に直接届くように、美術作品もまた、その場でしか体験できない特別な感動を私たちに与えてくれるのです。

 

芸術は、直接的な体験を通じて最も深く私たちの心に届きます。私たち演奏家は、一回一回のステージで、その瞬間にしか生まれない音楽を創り出す努力を日々重ねています。ぜひ会場で、生の音楽を直接受け取っていただければ幸いです。

今月は埼玉のギャラリーカフェ・ラルゴにて、ピアニストの小林侑奈さんと共にリサイタルを行いました。温かく迎えてくださるお客様や落ち着いた雰囲気に、まるで帰ってきたような安心感を覚えました。

 

今回のプログラムは、悲しみや葛藤に向き合いながら生まれた作品が中心でした。メインに演奏したブラームスのソナタ第3番は、友人が亡くなった際に作曲された作品で、静けさと深い情熱が併せ持たれた、美しく感情が対比された曲です。小林侑奈さんとの共演により、作品の内面の深さや繊細な表現を共有できたと感じており、お客様にもその思いが伝わっていれば幸いです。

このリサイタルでは、バッハの「シャコンヌ」を初めてお客様の前で演奏いたしました。私にとって特別な作品であり、これから長い時間をかけて深めていきたいと感じています。今回のリサイタルが、その始まりになったように思います。

 

また、長寿番組として親しまれている「芸能人格付けチェック」に出演しました。いつもとは異なる緊張感と興奮に包まれた、貴重な経験となりました。今回の企画は、ストラディヴァリウスを含むプロのアンサンブルと、音楽大学生のアンサンブルによる演奏の聴き比べでした。私はプロチームの一員として演奏に参加させていただきました。

大阪での二日間にわたる収録では、スタジオの無数のカメラとライト、そして大勢のスタッフが行き交い、テレビ番組ならではの華やかさと活気を肌で感じました。その一方で、一つの良いシーンを作り上げるために何度も繰り返されるテイクや、演出の調整など、画面には映らない制作現場も垣間見ることができました。

ご視聴いただいた皆様、どうもありがとうございました!

来月最初のコンサートは4日、東京タワーを間近に望む御成門のピアノカフェ・ベヒシュタインにて、「Concert with DOGs」第7回目を開催いたします。大切な家族であるわんちゃんと共に楽しめる、この独創的なコンサートシリーズです。ピアニスト則行みおさんと共に、フランスの作曲家ギヨーム・ルクーによる情熱的でドラマチックなヴァイオリンソナタを中心にお届けいたします。小さなお子様もご参加いただけますので、ご家族皆様でお越しください。

 

9日には、意匠を凝らした普段は非公開の能舞台にて、恒例の後援会主催コンサートを開催いたします。特別な空間でのトリオ演奏をお楽しみいただけます。ありがたいことに、本公演は既に満席となっております。

 

16日と17日には、京都の古刹・仁和寺にて演奏の機会を賜りました。千年の歴史を重ねた寺院の厳かな雰囲気のなか、歴史と響き合う音楽を絵本とのコラボレーションでお届けいたします。紅葉の美しい京都で、静謐な時の流れと共に音楽を楽しんでいただければ幸いです。

 

22日には、才能豊かなピアニスト小林侑奈さんと共に、秋葉原の楽器展示会の特別会場にてコンサートに出演いたします。お買い物の合間にも、どうぞお気軽にお立ち寄りください。

 

また、来月末には、実力派ピアニスト福原彰美さんとCDレコーディングを行います。来年春の発売を目指し、私たちの音楽への想いを一音一音丁寧に刻んでまいります。どうぞご期待ください。

 

会場で皆様にお目にかかれるのを楽しみにしております。

Concert with DOGs  Vol.7
2024年11月4日(月祝) 
第1部12:00~、第2部16:00~       
ピアノカフェ・ベヒシュタイン(御成門)地図   
共演:則行みお(ピアノ)       
わんちゃんやお子様にもお越しいただけます。
後援会主催 鈴木舞 冬のコンサート
2024年11月9日(土)

開演15:00
共演:小林侑奈(ピアノ)、グレイ理沙(チェロ)
どなたでもご参加いただけます。
 
絵本×音楽
2024年11月16日(土)17日(日)
開演15:30
仁和寺(京都)地図
要予約・無料
 
仁和寺×音楽
2024年11月17日(日)
開演14:00
仁和寺(京都)地図
要予約・無料
弦楽器大展示会 in 秋葉原UDX 2024
鈴木舞 & 小林侑奈 コンサート


11月22日(金)18:30 – 19:00

秋葉原UDX 4F UDXギャラリー「弦楽器大展示会in秋葉原UDX」特設会場

観覧無料

*当日10:00に会場受付にて先着順で座席整理券30枚を配布いたします。
お一人様1枚1公演限り。(立ち見の場合、整理券は必要ございません)

※混雑時は入場制限をさせて頂く場合がございます。 あらかじめご了承ください。
詳細はこちら

佐原詩音作曲個展 vol.7  Beautiful Horror

2024年12/17(火)

昼の部15:30夜の部19:20 

トーキョーコンサーツ・ラボ(西早稲田)地図

チケットぴあP コード

昼の部283784夜の部283789

ご予約que315710@gmail.com

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2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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