ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.82

楽器選びから始まる己との対話

先日、楽器の展示会でのコンサートに出演する機会がありました。会場には膨大な数の新旧さまざまな弦楽器が所狭しと並び、それぞれが独自の魅力を放っていました。その光景に圧倒され、楽器たちの存在感に息を飲むと同時に、幼い頃の記憶がよみがえりました。小学校6年生のとき、それまで使っていた分数サイズのバイオリンから、大人と同じフルサイズの楽器に持ち替えたときのことです。それは、私の演奏人生の上での最初の大きな挑戦でした。

そのときはコンクールの本選を控えており、確か本番まで2週間ほどだったと思います。「大人の楽器の方が音量も表現の幅も広がるから」との先生の勧めで、急遽フルサイズの楽器を手にすることになりました。

しかしこれは大変なことでした。楽器のサイズが変わると、構え方や腕の角度、指の開き具合、音程や弓を弾く位置、さらには力加減まで、すべてが大きく変わります。慣れるための時間は限られており、戸惑いながらも毎日必死で練習しました。練習を重ねる中で少しずつ新しい楽器に馴染んでいき、本番では何とか演奏をやりきることができましたが、結果は奨励賞という悔しいものでした。

それでも、その経験は私にとって重要な学びでした。楽器を変えることで新たな可能性が広がることを知り、演奏家としての自分を成長させる最初のステップとなったのです。

その後も私の楽器との出会いは続きました。短い時は数日や数週間のスパンで、数えきれないほど多くの楽器に触れてきました。

それぞれの楽器には異なる音色や個性があり、一つひとつが新たな発見をもたらしてくれました。

ある楽器は強く華やかな音色を持ちながらも繊細な表現が難しく、別の楽器は深みのある響きを持つ反面、音量が控えめで広いホールでは物足りなく感じることもありました。

手作りのバイオリンには、製作された時代や作り手の個性が色濃く反映されており、その形状や特性は一つとして同じではありません。そのため、音程の取り方や弓の角度、力加減なども毎回微妙に異なり、新しい楽器に慣れるのは容易ではありませんでした。
コンクール等の舞台で演奏する直前に新たな楽器と対峙しなくてはならないときは、限られた時間でその特性を理解し、音楽を作り上げなければなりません。
そのたびにその楽器の声に耳を傾け、真剣に向き合い、練習に全力を注いでいたことを思い出します。こうした経験の積み重ねは、技術だけでなく、楽器への感受性や対話力を育む時間となりました。

そして、今のアマティの楽器に出会った瞬間のことを、私は今でも鮮明に覚えています。長い間弾かれていなかった楽器だったそうですが、初めて音を出した瞬間、底知れないポテンシャルを感じ、圧倒されました。その響きに強烈に引き込まれ、心の中に強い思いが湧き上がりました。「この楽器が持つ可能性を、なんとしてでも私自身の手で引き出してみたい」。この未知の世界を目の前にして、私は熱意に満ちた祈りのような思いで、心の中でそのアマティに語りかけていました。その時の私の真摯な思いに楽器屋さんが応えてくださり、このアマティを貸与いただけることになったのです。この幸運な出会いが、今の私の音楽人生を大きく支えています。

しかし、この楽器との旅が楽器選びの終わりではないことをすぐに悟りました。それはむしろ、新たな挑戦の始まりだったのです。名器と呼ばれる楽器は、奏者に喜びだけでなく、試練も与える存在です。この楽器が心を開いてくれたと実感できるまで、数年の時が必要でした。その過程で、音色や響きの奥深さを改めて知り、楽器から学ぶことの多さに驚かされました。

音色を「育てる」という言葉がまさに当てはまる体験でした。音色作りを怠ったり、雑な音を出し続けていると、まるで楽器が拗ねたかのようにガサガサした音色や荒れた響きになってしまいます。しかし、毎日丁寧に対話し、楽器の声に耳を傾け、可能性を引き出す努力を続けると、楽器は応えるように豊かな音色を奏でてくれて、音色の引き出しが増えていきます。音色を育てていく作業を通じて、楽器との絆は深まり、音楽表現の幅も広がっていきました。

 

弓の役割の重要性も実感しました。「良い楽器は良い弓でしか鳴らせない」とよく言われますが、それは決して誇張ではありません。実際、相性の良い弓を使うことで、それまでできなかった表現やテクニックが可能になり、演奏が劇的に進化することを何度も経験しました。弓は楽器のポテンシャルを引き出し、奏者を助け支える重要な存在です。

それぞれの楽器と向き合うことは、単なる技術の向上にとどまりませんでした。音楽を深く理解し、自分の内面と向き合いながら、自分がどのように音楽を表現し、伝えたいのかを模索する貴重な時間でもありました。

バイオリニストにとって、バイオリンはただの道具ではなく、音楽を共に紡ぐかけがえのないパートナーであり、時には先生のような存在でもあります。

アマティとともに歩む旅路が、どのような音楽を紡ぎ出していくのか。これから先の新たな挑戦が、私自身とても楽しみです。

そして、その響きが聴衆の皆様の心に届き、共鳴を生むことができれば、それ以上の喜びはありません。​​​​​​​​​​​​​​​​

11月最初のコンサートは、恒例となった「わんちゃんと聴けるコンサート」でした。則行みおさんとともに始めた、愛犬と一緒にカフェで本格的なクラシックを楽しめるこのコンサートも、今回で7回目を迎えました。常連のお客様も増え、会場には可愛らしいわんちゃんたちの仕草や瞳に癒される温かい笑顔が溢れていました。

9日には、後援会主催の特別なコンサートが開催されました。非公開の能舞台という趣深い空間で、ピアニストの小林侑奈さん、チェリストのグレイ理沙さんとともに、モーツァルトのトリオを中心とした秋のプログラムをお届けしました。その後、このメンバーで大阪へ向かい、歴史ある大阪市中央公会堂の荘厳なホールで演奏させていただく機会にも恵まれました。

このトリオの次回公演は来年3月を予定しておりますので、詳細が決まり次第、改めてお知らせいたします。どうぞお楽しみにお待ちください。

また、紅葉が美しく色づく京都では、仁和寺にて2日間にわたる公演に出演いたしました。1 日目は絵本とのコラボレーションによる公演で、物語と音楽が織りなす豊かな感覚を体験しました。そして2日目のソロコンサートでは、木造りの会場と楽器が一体となり響きあう瞬間を感じながら演奏しました。

22日には、島村楽器の弦楽器展示会の特設会場にて演奏いたしました。数多くの楽器に囲まれたエネルギー溢れる会場で、小林侑奈さんとともに名曲の数々をお届けしました。会場には子供用の楽器も展示されており、初心に戻ったような気持ちとともにバイオリンの持つ純粋な魅力を改めて感じる時間となりました。

さらに、絵本未来創造機構のZoomラボでは、講演と演奏の機会をいただきました。画面越しのお話しと演奏にもかかわらず、たくさんのご質問をいただき、参加者の方々の積極的な姿勢に嬉しい気持ちでいっぱいになりました。

 

その他にも、お誕生日やウェディング、店舗のリニューアルといった様々なイベントに演奏で参加させていただきました。お祝いの場で音楽を通して皆様の気持ちを繋げることができ、私自身も幸せを分けていただいたように感じています。

そして、月末にはピアニストの福原彰美さんと2日間にわたるCDのレコーディングを行いました。このレコーディングの様子は、次回に詳しくお伝えしたいと思います。

12月は17日に、最先端の現代音楽の公演に出演。新作を含む多彩なプログラムをユニークな編成でお届けします。絵画からインスピレーションを得た音楽がどのように響くのか、想像力を掻き立てられる体験をぜひお楽しみください。

 

また、21日には大東文化大学にて宇根美沙惠さんと共演します。シューベルトやラヴェルを中心に充実のプログラムでお届けする予定です。

 

皆様と会場でお目にかかれるのを心より楽しみにしております。

佐原詩音作曲個展 vol.7  Beautiful Horror

2024年12月17日(火)

昼の部15:30 夜の部19:20 

トーキョーコンサーツ・ラボ(西早稲田)地図

チケットぴあP コード

昼の部283784夜の部283789

ご予約que315710@gmail.com

クリスマスの贈り物 ~ピアノとヴァイオリンの調べ~

2024年12月21日(土) 開演:15:00

大東文化大学大東文化会館(東武練馬駅)

共演:宇根美沙恵(ピアニスト)

お問い合わせ先:

大東文化大学 048-3-15-1267

※無料(先着順)

弦楽の三重奏 美の粋

2025年1月10日(金)開演:19:00

べビシュタインセントラム東京(日比谷)

共演:杉田恵理(ヴィオラ)、伊東裕(チェロ)

- ドホナーニ:弦楽三重奏のためのセレナード ハ長調 Op. 10

- ヴァインベルグ:弦楽三重奏曲 Op. 48

- モーツァルト:ディヴェルティメント 変ホ長調 K.563

お問い合わせ先:DUCK KEN(090-6304-4476)

詳細、チケット:https://teket.jp/9041/42605

お問い合わせはこのメールにご返信ください。

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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