ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.83

録音という「音の彫刻」

この秋、広大な畑に囲まれた茨城の静かなスタジオにて、2日間のCDレコーディングを行いました。本来なら形に残らない芸術である演奏を、記録するという作業。それは、普段の演奏活動とはまた違った集中力が求められます。

一音一音を磨き、音色や響き、そして表現をどうマイクを通して伝えるかを徹底的に追求しました。それは音楽家にとってまさに「音の彫刻」と呼べる行為。

その緻密さと集中力を要する作業の中で、新たな発見や喜びが生まれる瞬間もありました。

 

今回のCDでは、ピアニストの福原彰美さんと共に、セザール・フランクのヴァイオリンソナタ、彼の弟子であるギヨーム・ルクーのヴァイオリンソナタ、そして女性作曲家シャミナードの小品を収録しました。フランクとルクー、2人の作品には、ほとばしる情熱と深いロマンティシズムが共通して宿っています。その対比として軽やかで香り立つシャミナードの小品を加え、全体なバランスをとりました。

レコーディングのパートナーは、長年共演を重ねてきたピアニストの福原彰美さんです。福原さんはアメリカの名門ジュリアード音楽院で学び、世界的な巨匠たちからもアンサンブルの信頼を寄せられるアーティスト。彼女の演奏は温かみと力強さを兼ね備えており、その表現力は彼女の人柄そのものを映し出しているようです。特にフランクの演奏には独特の魅力があり、彼女とこの曲を録音することを熱望していました。深い信頼関係があるからこそ妥協せず本質に迫る音楽を追求することができました。

録音に向けて、福原さんとは入念なリハーサルを重ね、実際に録音した音を一緒に聴きながら細部のニュアンスを議論し磨き上げていきました。この「対話」を積み重ねる過程こそが、深みと説得力のある演奏を生み出します。また、今回の録音で使用したピアノは、ドイツの名器ベヒシュタイン。福原さんが普段から愛用しているのもベヒシュタインのピアノだそうで、個性の強い楽器ではありますが、録音ではすぐにピアノと打ち解けて、その魅力を存分に引き出してくれました。

私の使っているアマティのヴァイオリンも、その豊かな倍音で、フランス音楽の繊細なニュアンスと見事に調和しました。アマティ特有の温かみと深みのある音色が、ロマン派の芳醇な旋律をより響かせてくれたように思います。

スタジオに到着した初日、まず行ったのは音決めです。ピアノやマイクの位置、ヴァイオリンの立ち位置や向きを細かく調整し、最適な音響環境を探りました。この工程を支えてくれたのは、プロデューサーさんのプロフェッショナルな感性と技術。絶妙な配置で楽器の魅力を最大限に引き出してくれました。

 

その後は、ひたすら「弾いて、聴いて、また弾く」の繰り返し。録音では、どうしてもライブ感が失われがちですが、私たちは常に「生きた音楽」を目指しました。2人で演奏で対話しながら感情を高め合い、一音一音に命を吹き込んでいきました。

 

集中力を保つためには体調管理も欠かせません。私は集中すると喉が渇きやすい体質のようで、1日で3~4リットルもの水を飲みました。また、こまめにチョコレートやおせんべいをつまみながらエネルギー補給を行い、録音に臨みました。

今回の録音を通じて、改めて感じたのは、こだわり続けることの大切さです。練習段階から当日まで、指使いや弓使いを何度も見直し、とにかく音色やフレーズ感にこだわり抜きました。効率や利便性よりも「いかに美しい音を紡ぐか」に重点を置き、試行錯誤を重ねました。テンポやダイナミクス、音色の変化など、一つひとつの選択が音楽の全体像を形作ります。

 

CDのリリースは来年3月12日を予定しています。福原さんとの信頼を基盤に紡いだ音楽の結晶が、多くの方に届くことを心から願っています。どうぞお楽しみにお待ちください。

多くの素晴らしい演奏の機会に恵まれた、12月の公演を振り返ります。

逗子の美しいご邸宅でのデュオリサイタルでは、ピアニストの福原彰美さんとレコーディングしたフランクのソナタをメインに演奏しました。天井が高く響きの豊かな空間で、音楽がまるでその場に溶け込んでいくような感覚を覚えました。温かく迎えてくださった主催の方々、そして真剣に耳を傾けてくださるゲストの皆さまのおかげで、特別な時間を共有できたことを心から感謝しています。福原さんとの共演は、音楽的な対話を楽しむことができました。

また、佐原詩音さんの個展「Beautiful Horror」での2公演は、音楽と絵画、物語が交差する独特の世界観を体験できるものでした。現代音楽の初演は譜読みや技術的な挑戦が多く、心が折れそうになる瞬間もありましたが、共演者の皆さんと支え合い、音楽と向き合う喜びを深く感じることができました。終演後には、「また挑戦したい」と思わせてくれる不思議な感覚があり、それを楽屋で共演者と共有したことで一層励まされました。佐原さんの絵画や物語とのコラボレーションは、演奏者としても非常に刺激的な経験で、新しい芸術が生まれる瞬間に立ち会えるのは、いつも感動を覚えます。

さらに、大東文化学園でのコンサートでは、今年で3年連続の出演となりました。今年はこれまでで最も多くのお客様にご来場いただき、口コミで広がっていると伺い、とても嬉しかったです。ピアニストの宇根美沙惠さんと演奏したシューベルトのソナチネでは、「シューベルトらしさ」を大切にしながら、詩的で透明感のある世界を表現しようと試みました。会場全体が温かな雰囲気と笑顔に包まれた中で、音楽が自然に流れていく感覚を味わうことができました。

また、審査員として参加した日本クラシック音楽コンクール全国大会では、多くの高校生や大学生の真剣な演奏に触れることができました。どの演奏にも、それぞれの想いや努力が込められていて、音楽に点数をつけることの難しさを改めて感じました。それでも、若い演奏家たちの姿に刺激を受け、これからの音楽界がさらに発展していく可能性を感じることができた貴重な経験でした。

 

時節柄、パーティーでの演奏の機会も多くいただき、様々な場で音楽をお届けする喜びを実感しました。こうした場所でいただく新しい出会いや交流は、私にとってかけがえのないものです。一つひとつの出会いに心から感謝しています。

2025年最初のコンサートは、1月10日に弦楽トリオの公演を予定しています。モーツァルトから20世紀の音楽まで、時代を超えた魅力的な名曲をお届けします。共演者は、ヴァイオリニストの杉田恵理さん、チェリストの伊東裕さんという豪華な顔ぶれ。弦楽トリオという編成は演奏の機会が比較的少ないため、今回のコンサートは特別なものになると思います。新年の幕開けにふさわしい華やかな公演。ぜひお越しください。

 

 

2024年もたくさんの方々に支えられ、多くの場で音楽を通じて素晴らしい時間を共有することができました。一つひとつの公演が特別な思い出として心に残り、皆さまとのご縁に感謝の気持ちでいっぱいです。

 

来年もさらに音楽を深め、多くの方々と感動を共有できる一年にしたいと思っています。どうぞ2025年もよろしくお願いいたします。

そして、皆さまにとって素晴らしい年となりますよう、心からお祈り申し上げます。新しい年にまたお会いできるのを楽しみにしております。どうぞ良いお年をお迎えください。

弦楽の三重奏 美の粋

2025年1月10日(金)開演:19:00

べビシュタインセントラム東京(日比谷)

共演:杉田恵理(ヴィオラ)、伊東裕(チェロ)

- ドホナーニ:弦楽三重奏のためのセレナード ハ長調 Op. 10

- ヴァインベルグ:弦楽三重奏曲 Op. 48

- モーツァルト:ディヴェルティメント 変ホ長調 K.563

お問い合わせ先:DUCK KEN(090-6304-4476)

詳細、チケット:https://teket.jp/9041/42605

あしたの音の葉

2025年2月28日(金)開演15:00(開場14:00)

菊水楼 THE YAMATO (奈良県)地図

共演:野口暁 (舞)、大森和歌子 (音楽)、大小田さくら子 (やまとかたり)

お問い合わせ先:

電話番号: 0742-23-2001 (受付時間 10:00~18:00、火・水定休日)

Concert with DOGs  Vol.8
2025年3月8日(土) 第1部12:00~、第2部16:00~  ピアノカフェ・ベヒシュタイン(御成門)地図    共演:則行みお(ピアノ)     
わんちゃんやお子様にもお越しいただけます。

鈴木舞&小林侑奈 デュオリサイタル ~山手の丘に春の訪れを感じて~

2025年3月20日(木祝)13:30開演(13:00開場)

横浜イギリス館 地図

共演: 小林侑奈 (ピアノ)

お問い合わせ先:

一般社団法人ハーモニーアイ

電話/FAX: 045-811-7293

メール: harmonyaijimukyoku@gmail.com

第7回 四季彩の調べ 音楽と美食の饗宴

日時: 2025年3月22日(土) 10:00~15:00

笛吹みんなの広場(山梨県)地図

共演: 小林侑奈 (ピアノ)

お問い合わせ先:

電話番号: 080-3091-7184

メールアドレス: ongaku@esuwai.com

お問い合わせはこのメールにご返信ください。

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
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鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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