ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.75

楽譜から作曲家の意図を読み解く

さて、南米ツアーの大詰めとなるコンサートでは、チリ南部の街、ヴァルディヴィアでメンデルスゾーンの二重協奏曲を演奏しました。この曲は16歳の若さでメンデルスゾーンが作曲した、オーケストラをバックにバイオリンとピアノがソロを披露する形式で、私にとっては初めての挑戦となる作品です。

新しい曲を学ぶ際には、単に音符をなぞるだけでなく、譜面上から、作曲家が意図し、イメージしたことを読み込み、汲み取る必要があります。

作曲家によっては、同じ指示であっても異なる解釈がされることがあります。例えば、「diminuendo(だんだん小さく)」の場合、シューベルトの楽譜では少しテンポを緩める意味も含まれることがあります。同様に、プーランクの楽譜にある「だんだん早く」という指示は、時には「テンポを遅くしないで」という意図があります。

さらに、「歩くような速さで」と訳される「Andante」も、作曲された時代によってテンポ感が大きく異なります。クラシック音楽を演奏する上では、単に演奏技術を磨くだけでなく、伝統に基づいた楽譜の解釈を学ぶことが非常に重要です。これによって、より深い理解と表現が実現されます。

どんな曲でも楽譜に指示が的確に書かれていると、楽譜から作曲家がどのような演奏を望んでいたのかが想像しやすく、表現の可能性も広がります。

ところがメンデルスゾーンの二重協奏曲の楽譜には、若い頃の作品ということもあってか、フレーズや弓の使い方などの具体的な指示が不明瞭でした。何度か登場する同じメロディでも、一回目は弓を切らずに繋げて演奏するようにスラーが書いてあり、二回目には全くスラーが付いていないなど、意図的なのか省略されたのか、判断が難しい部分が多くありました。様々な楽譜を見比べましたが、出版社による解釈の違いもあり、作曲家がどのようなフレーズやイメージで書いたのかを読み解く際に混乱してしまいました。

そこで、ウェブ上で公開されていたメンデルスゾーンの自筆譜をダウンロードし、そこから作曲家の意図を読み取ろうとしました。オーケストラのパートを含む自筆譜と対峙することによって徐々に理解が深まり、自分なりに作曲家がイメージしたであろう音楽を汲み取り、弓の使い方やフレーズを作っていきました。

そうすることで、より作曲家の想いを伝える演奏に近づけるよう努めました。

チリ滞在中、数多くの公演や教育活動の合間に、ピアノのソロを務めるダノールとメンデルスゾーンのリハーサルを積み重ねました。爽やかで美しいこの曲はどちらのパートも非常に難しく、更に快活なテンポで進むため、0.1秒のずれがアンサンブルの命取りとなります。自分のパートに集中しながら完璧にアンサンブルをするには慣れも必要で、時には深夜まで二人で繰り返し練習をしました。

 

そして、ヴァルディヴィアでの2つの公演が迫ってきました。日本でも度々公演をされているデイヴィッド・グレイルザンマーさん指揮、La Orquesta de Cámara de Valdiviaとの共演です。

現地入りした翌日は、オーケストラと実施的な練習ができる唯一のリハーサル。緊張と期待が入り混じります。

奏でられたオーケストラの前奏は想定していたよりも速いテンポで少し不安を感じましたが、ひとまずそのテンポに乗って演奏してみたところ、これまでの練習の甲斐あってか、大きな流れを感じながら大きな問題なく進みました。

細かな打ち合わせを経て、約1時間のリハーサルが終了しました。若手からなるアンサンブルは、欧州で学んだメンバーも多く、非常にレベルの高いオーケストラで、会場の響きも素晴らしく、本番に向けて心地よい緊張感と充実感に包まれました。

リハーサルの録音を聴き返し最後の調整をして、いよいよ迎えた本番当日。

 

午前中は「公開ゲネプロ(ゲネラルプローベ)」と呼ばれる通し稽古で、地元の学生たちを観客に、演奏会形式で行われました。

彼らは真剣かつ興味津々の様子で、会場は活気に溢れました。指揮者による曲の簡潔な曲目解説が挟まれ、演奏者たちは私服姿で舞台に立ちました。その和気あいあいとした雰囲気が、まさに音楽を共有する喜びを感じました。

 

そして夜の20時、待ちに待った最初の公演が始まりました。

舞台上の皆の集中力が極限まで高まり、メンデルスゾーンの音楽に情熱が溢れ、観客もそのエネルギーに巻き込まれたよう。演奏後には割れんばかりの拍手が沸き起こりました。

 

翌日は美しい白塗りの歴史を感じさせる会場で2公演目。舞台上の連帯感は初日より高まり、さらにリラックスした雰囲気で生き生きとした演奏となりました。

公開ゲネプロを含めた3回の演奏は、それぞれ心躍る瞬間が沢山生まれました。

チャーミングで鮮やかな世界がひろがるこの素晴らしい作品の再演の機会を得られることを願っています。

コンサートを終えた翌日は、ヴァルディヴィアの街を散策しました。海に近く、水と緑に溢れた美しい街です。川沿いには市場があり、珍しい海産物が多く販売されていました。

特に目を引いたのは、大きな容器に詰められたウニの海水漬けでした。価格も日本では考えられないほどお手頃で、つい手に取ってしまいました。

また、市場で魚を捌いている人のそばには、おこぼれをもらおうとして待ちわびている野生のアシカがいたりと、驚くべき光景にも出会うことができました。

ツアーのお話はまた次回に続きます。

今月の初めは地方公演が続きました。5日は河口湖音楽と森の美術館で開催されたロメロ・ブリット来館記念コンサートで、小林侑奈さんと一緒に世界の春をテーマに演奏しました。この美術館では何年も前から何度も演奏していましたが、久しぶりに聴いてくださった方々から、前回よりも演奏が格段に成熟しているとお褒めのお言葉をいただき、とても励まされました。

翌6日には、京都の桜覧イベントで演奏しました。世界遺産である仁和寺で弦楽四重奏を披露。お天気と満開の桜に恵まれ、桜の木のふもとでの演奏がかない、夜はライトアップにより幻想的な雰囲気に包まれました。

7日は千葉市美術館でのギターとのデュオコンサートでした。私の好きな作曲家の一人であるパガニーニは、ギタリストのパートナーと共演するための作品を数多く作曲しており、それらの作品を演奏することが私の長年の夢でしたが、チリ出身のギタリスト、アレクシス・バジェホスとのコラボレーションで実現できました。パガニーニの愛に溢れた作品を演奏できたことはとても嬉しく、今後もレパートリーを広げていきたいです。

 

4月後半にはミュンヘンにて公演を行いました。その様子については追ってお伝えしたいと思います。

次回国内でのコンサートは6月1日にNHKホールで佐々木新平さん指揮 日本フィルハーモニー交響楽団と共演。6月19日には王子ホールで萩原麻未さんとのリサイタルなど、大きな公演が続きます。また、6月9日には後援会主催で日本画とのコラボレーションコンサートも行います。是非お運びください。

会場で皆様とお会いできることを楽しみにしています。

ジョン・ウィリアムズ フルオーケストラコンサート
2024年6月1日(土) 15時開演
NHKホール(渋谷)地図     
共演:佐々木新平指揮、日本フィルハーモニー交響楽団

ジョン・ウィリアムズ:シンドラーのリスト

チケット、詳細はこちら

 

鈴木舞 後援会 夏のコラボコンサート&お食事会

6月9日(日) 14:30開場、15:00開演 

IDÉALビル 能舞台(表参道)

出演: 鈴木舞(ヴァイオリン)、小林侑奈(ピアノ)、グレイ理沙(チェロ)、林宏樹(日本画家)

詳細はこちら

お申し込み

デュオリサイタル
2024年6月19日(水) 19時開演 
王子ホール(銀座)地図

共演:萩原麻未

フォーレ:ヴァイオリンソナタ、他

 

デュオリサイタル
2024年7月20日(土) 
共演:福原彰美

詳細はお待ちください。

 

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2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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