ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.77

【冬の終わりから冬の始まりへ

南米ツアーを終えた安堵と新たなステージへの期待と共に、ミュンヘン空港に到着しました。空港に降り立つと、ドイツ名物のプレッツェルの香ばしい香りが漂い、一気にドイツに戻ってきた実感が沸きました。

日本の暑い夏を後にし、南半球のチリで冬を超え、また北半球のドイツに戻ったときには、すでに冬の足音が聞こえていました。

寒い季節を渡り歩くツアーでしたが、新しい出会いや懐かしい再会、迎えてくれる人々の温もりが、寒さを忘れさせてくれました。

ミュンヘンでの最初のコンサートは、前回のニュースレターで動画をお届けしたモーツァルトのコンチェルト。会場は約1200席を有する「ヘラクレスザール」で、旧バイエルン王国の住居であり、その堂々たる佇まいが今もなお残る歴史的なホールです。

このようなステージに立つ期待と歴史の重みに対する緊張が入り混じります。

 

この公演に臨む前に、私はかつてミュンヘンで学んでいた頃に師事していたトゥルバン先生のレッスンを受ける機会に恵まれました。4年ぶりの再会で、トゥルバン先生は変わらず巨匠のオーラを放っており、その存在自体がすでに私の身を引き締めます。

私自身が生徒をもち教える側に回った今、再び自分が生徒としてレッスンを受けるのは新鮮な感覚でした。トゥルバン先生の指導を受け、学生時代の緊張感と期待が一気に蘇ると共に、生徒としての視点も改めて理解することができ、現在の教える立場でも多くのヒントを得られました。

 

長年弾き続け準備を重ねてきた曲にもかかわらず、先生のアドバイスは新たな発見の連続でした。モーツァルトの書いたアーティキュレーションの解釈やフレージングの違いによる表現力の多様性、音色のニュアンスの出し方など、いくつもの新しい視点を与えてもらい、脳内が掻き回されるような感覚で新しい風が吹き込み、「目から鱗」のような経験でした。

 

先生に4年ぶりに演奏を聴いていただき、「音色がより成熟し、音楽表現がオープンになった。成長を見られて嬉しい」という言葉をいただきました。このお言葉は私にとって何よりの励みとなり、自信となりました。

レッスンの後、先生と先生のパートナーと共にお食事をいただきました。会話は終始楽しく、特に悪夢の話題で盛り上がりました。

本番でオーケストラが、準備したのと違う曲の前奏を弾き始めたとか、舞台上に全く見覚えのない楽譜が置かれていて大勢のお客様の前で初見で演奏しなければならない、というのは演奏家がよく見がちな悪夢ですが、巨匠の域に達し、自信に満ちているように見える先生も同じような悪夢に悩まされると知り、少し親近感を感じました。

コンサートの前に、2回のオーケストラとのリハーサルがありました。指揮者との意見の食い違いから一瞬緊張が走る場面もありましたが、奏者たちは皆音楽に寄り添い、フレンドリーに接してくれ、共演の喜びを分かち合えました。

 

本番の会場であるヘラクレスザールでは、当日の朝にゲネラルプローベ(通し練習)を行いました。憧れのホールでの演奏は、本当に貴重な体験でした。ヘラクレスザールはキラキラとした音が柔らかく広がるのが印象的な響きでした。

そしていよいよ迎えた本番。演奏が始まると、約20分のコンチェルトが一瞬のように感じられました。長い時間をかけて練習を積み重ねてきた曲は、まるで打ち上げ花火のようでした。

満席のお客様から会場いっぱいの沢山の拍手を受けて、涙が滲みました。

さらに感激が深まったのは、日本からはるばる応援に駆けつけた多くの方々や、コンサートに足を運んでくださったミュンヘンの友人たちの存在でした。全ての人々の温かい応援と支えに胸が熱くなりました。そして何よりも、この瞬間を多くの大切な方々と共有できたことに、言葉にできないほどの感謝で胸がいっぱいになりました。

続く3公演はリサイタルです。ミュンヘン在住のピアニスト、柏本佳央理さんとの共演で、モーツァルトとプロコフィエフのソナタを中心としたプログラムを披露しました。

 

リサイタルでは、私は曲間に曲目解説をすることがよくあります。解説を通じて、音楽の背景や作曲家の意図を伝えることで、演奏と聴衆の間により深い対話を生み出すためです。

ミュンヘンでは英語での解説を行いました。初めは若干の緊張がありましたが、回を重ねるごとに慣れていき、観客の皆様が頷きながら熱心に聴いてくださる姿に励まされました。

クラシック音楽の本番、ヨーロッパでの演奏は、普段とはまた違うプレッシャーが伴いました。アモイヤル先生によく言われた「テクニックの不安ではなく、音楽が伝わらないかもしれない不安からの緊張を抱くように」という言葉を思い出しました。その緊張が表現や音楽に対する集中力をもたらしました。演奏後の大きな拍手と笑顔から、観客の温かさと、音楽への愛情を感じました。

 

これらの公演を通じて、新たなミュンヘン公演の依頼もいただきました。この素晴らしい街で再び演奏できる機会が巡ってくることを、心から嬉しく思っています。

 

 

6月は、特別なコンサートが続きました。

まずはNHKホールでの演奏です。佐々木新平さん指揮、日本フィルハーモニー交響楽団とともに「シンドラーのリスト」より「追憶」を共演しました。佐々木新平さんとは、一年前のチャイコフスキーの協奏曲以来の共演です。そして、このコンサートでは驚きの再会もありました。コンサートマスターを務めたのは、大学の同級生である森岡聡さん。他にもオーケストラのメンバーに同級生が2人おり、大変心強い本番となりました。休憩時間にはまるで同窓会のような和やかな雰囲気に包まれ、嬉しい再会を楽しみました。

NHKホールでの演奏は初めてで、3500席を超える満席の巨大なホールには圧倒されました。今回演奏した「追憶」は、憂いを帯び、変拍子が心のあやを表現しているようです。弾けば弾くほどその魅力に引き込まれ、本番では一番曲に没頭できました。

次に、銀座の王子ホールで行われたリサイタルです。共演したのは憧れのピアニスト、萩原麻未さん。3回目の共演となりますが、彼女と一緒に演奏できることは、私にとって大きな喜びでした。プログラムの中心に据えたのは、今年没後100年を迎えるフォーレのソナタです。萩原さんの饒舌でサポーティブなピアノに包まれ、まるで夢の中にいるような幸福感に満ちた時間でした。いつまでも弾いていたくなるような、そんな幸せな本番でした。

また、後援会主催のコンサートでは音楽と絵画の融合という挑戦的な試みでした。会場内には林宏樹さんによる美しい日本画が飾られ、その中で演奏。芸術の饗宴をお届けしました。

チェロのグレイ理沙さん、ピアノの小林侑奈さんと共に、展示された日本画からインスピレーションを得た特別な楽曲や、ピアノトリオの名曲を演奏しました。日本画と音楽が一体となり、視覚と聴覚の融合を楽しんでいただけたことと思います。

いずれのコンサートも完売となり、満席のお客様にお越しいただけたことは本当に嬉しい限りです。観客の皆様の温かい拍手と笑顔は、次へ向けての大きな励みになります。

 

 

この他にも、プライベートの公演がいくつかあり、6月も非常に充実した活動を送ることができました。音楽を通じて多くの方々とつながり、共有できる喜びを改めて実感しています。

7月は、7日の七夕の日に福原彰美さんとリサイタルです。フランクとルクーのロマンチックな二つのソナタを取り上げます。深い情感と美しいメロディが特徴で、まさに七夕の夜にふさわしいプログラム。ぜひ会場でその魅力を直接聴きにいらしてください。

 

続いて、21日にはレストランにて開催されるランチとディナーコンサート。美味しいお食事と共に、リラックスした雰囲気の中で演奏をお楽しみください。

 

そして、27日には恒例の、わんちゃんと聴けるコンサートです。ペットや小さなお子様にもお越しいただけます。ご家族の皆さまで楽しいひと時を過ごしください。

 

皆様と会場でお会いできますのを楽しみにしております!

【関西の皆様へご案内とお願い】

ミュンヘンで共演した柏本佳央理さんと、この夏、日本でのコンサートに出演します。一つ目の公演は8月22日、大阪でのコンチェルトです。このコンサートは、実は企画が進んだ後に、仲介者の虚偽による契約のトラブルが発生し、私が図らずも多くのチケットを抱えることになってしまいました。演奏人生で初めてのことで戸惑っております。

このような特別な事情がございますので、関西方面の方はぜひお越しいただければ幸いです。

チケットの購入につきましては、私に直接ご連絡をお願い申し上げます。こちらのメールにご返信、もしくはSNSにてご連絡いただけましたら、詳細をご案内させていただきます。

 

また、8月25日に神戸、31日に東京にて、ヴィオラの杉田恵理さんを加えたトリオでの共演を予定しております。こちらも近々ご案内できると思います。多くの方にお越しいただけましたら嬉しいです。

デュオリサイタル
2024年7月7日(日) 14時開演

汐留ホール 地図
共演:福原彰美

フランク:ヴァイオリンソナタ、他

詳細はこちら

 

ランチ/ディナーコンサート
2024年7月21日(日)  
Vineria La Ciau(田町)地図  
共演:則行みお(ピアノ)  
小型犬のみ一緒にお越しいただけます。
ご予約、お問い合わせ:050-5486-8298

Concert with DOGs  Vol.6
2024年7月27日(土) 第1部12:00~、第2部16:00~     
ピアノカフェ・ベヒシュタイン(御成門)地図     
共演:則行みお(ピアノ)     
わんちゃんやお子様にもお越しいただけます。

ご予約、詳細はこちら

會田瑞樹  パーカッションリサイタル 2024

2024年8月9日(金) 18:30開場 19:00開演

東京文化会館小ホール(上野)地図

ヴィヴァルディ作曲/會田瑞樹編曲:四季全曲

入場料:前売3,000円/当日3,500円 (全席自由)

チケットご予約:https://t.pia.jp/

チケットぴあ [Pコード:245-558] (オペレーター対応)

チケットお問合せ:サンライズプロモーション東京 TEL: 03-5685-0650 (平日12:00-15:00)

お問合せ: aitamizuki.vibraphone@gmail.com / 080-6008-1297 (公演事務局)

アウローラ管弦楽団サマーコンサート

2024年8月17日(土)14:00開演

軽井沢大賀ホール 地図

共演:田部井剛指揮 アウローラ管弦楽団

サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番

金席自由(一般 1,000円)

チケット販売先/軽井沢大賀ホールチケットサービス

TEL:0267-31-5555(10:00~18:00)

2024年8月10日(土)以降の予約は、

アウローラ管弦楽団広報担当(masaki@nebulas.com.090-3596-4639)まで

詳細はこちら

コンチェルトシリーズvol.21
2024年8月22日(木)19:00開演

茨木市市民総合センター(クリエイトセンター)センターホール(大阪府)地図

サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番

共演:松岡究指揮 アマービレフィルハーモニー管弦楽団

こちらの公演のチケットは、手持ちのチケットがございますため、鈴木に直接お問い合わせください。

お問い合わせはこのメールにご返信ください。

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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