ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.84

ヴァイオリニストは、どうやって「正しい音」を見つけるのか?

本年最初のメルマガとなりますので、改めて新年のご挨拶を申し上げます。皆さまにとって、実り多く、心満たされる一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

今年も音楽を通じて多くの素晴らしい出会いがあることを願いながら、一つひとつの演奏に心を込めて臨んでまいります。そして、聴いてくださる皆さまと、音を通じて深く響き合える瞬間を大切にしたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

さて、新年最初のニュースレターでは、ヴァイオリニストにとって最も基本でありながら奥深い「音程の取り方」についてお話ししたいと思います。

皆さんは、ヴァイオリンの音色を耳にしたとき、その一音一音がどのように作られているかを考えたことはありますか?

ヴァイオリンは、音色だけでなく、演奏者が自分の耳と感覚を使いながら音程を作り出していく楽器です。ピアノのように鍵盤があるわけではなく、演奏者自身がその場で一音ずつ響きを吟味しながら奏でます。そのため、同じ曲でも演奏者や演奏する場所、さらには共演者によって音程や響きが微妙に変わる、非常に奥深い世界なのです。今回はその「音程の取り方」について、演奏者の目線から少しお話ししてみたいと思います。

 

ヴァイオリンで音程を取る際、共演する楽器によってその取り方は変わります。たとえば、ピアノとの共演では、ヴァイオリニストはピアノの音程に合わせる必要があります。ピアノは「平均律」と呼ばれる音律で調整されており、どの調性でも演奏できるよう、すべての音程が均等になるよう設計されています。そのため、ヴァイオリニストはピアノの平均律を基準にしつつ、メロディラインがより美しく響くように音程を微調整します。たとえば、同じ「ド」という音でも、フレーズ全体の流れや楽曲の構造に応じて、わずかに高めたり低めたりすることで、ピアノとの調和を保ちながら、旋律に豊かな表情を加えるのです。

一方、ピアノが入らないソロや弦楽器のみのアンサンブルでは、使う音程の基準が変わります。このような場面では、「ピタゴラス音律」や「純正律」という音律が用いられます。ピタゴラス音律は、古代ギリシャの数学者ピタゴラスが提唱した音律で、5度の音程(例えばドとソ)が最も美しく響くように調整されます。弦楽器は五度で調弦されるので、弦楽器の旋律が明瞭で伸びやかに響きます。

 

純正律は、和音をできるだけ美しく調和させることを目的とした音律です。特に和音を構成する3度や6度といった音程(たとえばドとミ、ドとラ)がぴったりと響き合うよう調整されます。この純正律を意識して演奏すると、弦楽器同士の響きがより一体感を持ち、聴き手に心地よい和音として伝わります。たとえば弦楽四重奏で和音を奏でる際、演奏者たちはお互いに耳を傾けながら純正律を意識し、各音が全体の調和を崩さないよう調整していきます。

 

さらに、ヴァイオリニストが演奏中に果たす役割によっても音程の取り方は異なります。メロディを担当する場合には、その旋律が際立つようにピタゴラス音律を基準にします。一方、内声や伴奏を担当する際には、純正律を意識して他の楽器との調和を優先します。このように、役割に応じて音程の基準を切り替えることで、アンサンブル全体の響きがさらに豊かになるのです。

音程の調整は、技術だけでなく演奏者の感性も問われる大切な作業です。同じ楽譜であっても、共演者や会場の響き、その場の空気感によって最適な音程は異なります。一音一音の響きを丁寧に作り上げていくプロセスは、試行錯誤の連続ですが、それこそが演奏者にとっての醍醐味でもあります。リハーサルでは、「この音をもう少し高めにしてみよう」「和音全体をもっと柔らかく響かせよう」といった会話を重ねる中で、一つの音楽が形作られていきます。

 

音程の話は少し専門的に感じられるかもしれませんが、次回コンサートにお越しいただいた際には、ぜひヴァイオリンが奏でる一音一音の響きに耳を傾けてみてください。ピアノとの共演での微調整や、弦楽器同士の美しい調和がどのように生まれているのかを感じていただければ、音楽の新しい楽しみ方が見つかるかもしれません。その響きが皆さまにとって特別な時間となりますように。

新年最初のコンサートは、初めて挑戦した弦楽三重奏でした。杉田恵理さん、伊東 裕さんの素晴らしい共演者とともに、新たなレパートリーに取り組みました。難曲揃いではありましたが、そこに秘められた魅力に心を奪われながら、お正月返上で必死に練習を重ねました。

演奏後、お客様からいただいた温かい拍手と笑顔が、練習を重ねた日々を報いてくれたように感じます。音楽を通じて生まれる瞬間の輝きや、共鳴する心の温かさを、改めて実感したコンサートでした。

翌週には、ピアノを学ぶ子どもたちとの室内楽の共演がありました。ピアノトリオの編成で、全21曲を演奏。本番前日のリハーサルでそれぞれにアドバイスをさせていただいたところ、翌日はまるで別人のように成長した姿を見せてくれました。その吸収力と集中力には驚かされ、私自身も大きな刺激を受けました。音楽を学ぶことは、単に技術を身につけることではなく、聴く力を養い、共演者との対話から自分の音を見つめ直す作業でもあります。その過程を目の当たりにできたことが、とても嬉しい経験となりました。

 

また、養護施設の子どもたちに演奏を届ける機会に恵まれました。公共ホール音楽活性化支援事業(地域創造 登録アーティスト)としての活動の中で、音楽を通じたアウトリーチについて考える機会が多くあり、その経験が今回の演奏にも大きく生かされました。自分が音楽を通して何を伝えたいのかが明確になっていたことで、ただ演奏するのではなく、言葉と音を通じて思いをしっかり届けることを意識できたように思います。

 

子どもたちは、目を輝かせ、身を乗り出して聴いてくれ、その純粋な反応に、私の方が力をもらったように感じました。音楽はただ耳で聴くものではなく、心で感じるもの。言葉では伝えきれない何かを、音を通じて届けられたなら、それ以上の喜びはありません。

 

今後のコンサートのご案内です。

明日、1月31日には、キタノホテルのリニューアルしたレストランにて、ランチコンサートを開催いたします。優美なベーゼンドルファーのピアノとともに、心地よい午後のひとときをお届けします。キャビアとシャンパン、そして茶道のレクチャーが楽しめる、贅沢なコンサートです。音楽とともに五感を満たす特別な時間を、ぜひお楽しみください。数席まだ余裕があるそうですので、ご興味のある方は直接お問い合わせください。

 

2月28日には奈良へ。歴史と文化が息づく地に佇む菊水楼にて、古事記の大和語りと舞踊とのコラボレーションに出演いたします。この空間が持つ時間の重みと、語り・舞・音楽が織りなす世界が交差する、まさに一夜限りの舞台。日本の美意識と、そこに宿る精神性を、音楽を通じて表現できることを楽しみにしています。

 

3月8日には、恒例となった愛犬と楽しめるコンサート御成門のベヒシュタインカフェにて開催いたします。春の訪れを感じさせるシューベルトとフランクの作品を軸に、心温まるプログラムをお届けします。人と動物が音楽を通じて同じ空間を共有する、このユニークなコンサートでは、音楽の聴き方や感じ方も、どこか柔らかくなる気がします。次回も多くの皆さまと、この特別な時間をご一緒できることを楽しみにしています。

 

さらに、3月12日には新しいCDをリリース予定です。長い時間をかけて温めてきた作品たちを、形に残るものとして皆さまにお届けできることが、とても嬉しく、また少し緊張もしています。このコンサートでは、発売に先駆けてCDを先行販売いたしますので、ぜひ会場でお手に取っていただけましたら幸いです。

 

みなさまにお会いできることを心より楽しみにしております。

あしたの音の葉

2025年2月28日(金)開演15:00(開場14:00)

菊水楼 THE YAMATO (奈良県)地図

共演:野口暁 (舞)、大森和歌子 (音楽)、大小田さくら子 (やまとかたり)

お問い合わせ先:

電話番号: 0742-23-2001 (受付時間 10:00~18:00、火・水定休日)

Concert with DOGs  Vol.8
2025年3月8日(土) 第1部12:00~、第2部16:00~  ピアノカフェ・ベヒシュタイン(御成門)地図    共演:則行みお(ピアノ)     
わんちゃんやお子様にもお越しいただけます。

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鈴木舞&小林侑奈 デュオリサイタル ~山手の丘に春の訪れを感じて~

2025年3月20日(木祝)13:30開演(13:00開場)

横浜イギリス館 地図

共演: 小林侑奈 (ピアノ)

お問い合わせ先:

一般社団法人ハーモニーアイ

電話/FAX: 045-811-7293

メール: harmonyaijimukyoku@gmail.com

第7回 四季彩の調べ 音楽と美食の饗宴

日時: 2025年3月22日(土) 10:00~15:00

笛吹みんなの広場(山梨県)地図

共演: 小林侑奈 (ピアノ)

お問い合わせ先:

電話番号: 080-3091-7184

メールアドレス: ongaku@esuwai.com

お問い合わせはこのメールにご返信ください。

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム 好評発売中!
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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