ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.86

【新たなパートナーとの出会い

15年にわたり弾き続けた楽器を離れ、このたび新たな楽器を迎えることになりました。

ヴァイオリニストにとって、それは単なる「道具の変更」ではなく、人生の節目ともいえるほどの大きな出来事です。

新たな出会いが、音楽人生の次の章を開くことになりました。

その出会いは、2022年秋に遡ります。ある日、楽器を探している知人を紹介するため、楽器店さんを訪れました。そこに置かれていたのが、当時演奏していた1683年のアマティと一歳違いの1682年製のニコロ・アマティ。この一挺のヴァイオリンが、まさか自分の人生にこれほど深く関わることになるとは、その時は夢にも思っていませんでした。

 

楽器を手に取り、弓を弦に乗せた瞬間、音が響いたその一瞬で、私は強く心を揺さぶられました。深く、美しく、どこまでも広がる音色。その響きには、単なる楽器の音ではなく、どこか人間の感情そのもののような奥行きと陰影が宿っていました。

 

これまで15年間ともに歩んできたアマティは、天使の歌声のような明るく透き通った音色を持っていました。それに対して、この1682年製のアマティは、深みのある、どこか影を帯びた音色。その音に身を委ねると、私がこれまで経験してきたさまざまな出来事、喜びも、苦しみも、挑戦も、すべてを、この楽器が引き受けてくれるように感じました。まるで私の人生がこの楽器に溶け込んでいくような感覚。恋に落ちる、とはこういうことなのかもしれません。私は、完全にこの楽器に魅了されていました。

しかし、こうした歴史的な銘器は、個人の演奏家が購入できるような金額ではありません。この楽器も、売りに出されてはいたものの、私が手にするためには購入して貸与してくださるオーナーを見つけるしか方法はありませんでした。

2023年、楽器店 株式会社atsumariさんとともに、多くの方にこの楽器を知ってもらい、可能性を探るため、様々なイベントで演奏を行いました。けれども、なかなか話は前に進まず、次第に「この楽器を弾くことは叶わないかもしれない」と、半ば諦めかけていたのです。

そんな中、今年1月の終わりに突然、一本の電話が入りました。

「状況が変わり、舞さんに貸与できることになりました。」

 

ずっと願っていたことが、まさか実現するなんて。予想もしなかった突然の展開に、驚き言葉を失いました。

 

楽器の貸与契約には、一般的に高額な保険料が必要になります。この楽器も例外ではなく、演奏するには保険代の負担が伴います。しかし、その点についても、私の夢を支えてくださる方のお力添えがあり、実現へと繋がりました。多くの方々の温かいご支援と、奇跡のようなご縁が重なり合い、株式会社atsumariさんを通してこのGrand Amatiの貸与を受け、ともに新たな音楽人生を歩むことになったのです。

 

この巡り合わせが、どれほど嬉しく、ありがたいことか。心の底から、全世界に感謝したい気持ちです。そして、このご縁に報いるためにも、私は今まで以上に音楽と真摯に向き合い、この楽器とともに研鑽を積んでいきたいと強く思っています。

 

新たなパートナーとともに奏でる音が、どんな風に変化し、どのように響いていくのか。これからの旅が、どんな音楽の景色を見せてくれるのか。私自身、胸が高鳴る思いです。

 

この楽器との新しい旅路を、一音一音、大切に紡いでいきます。

三月は、五感と心で春を感じるような、彩り豊かなコンサートが続きました。

 

月初めは、あるケアハウスを訪れて、1日5回の連続公演という初めての挑戦からスタート。毎回その場にいらっしゃる方々と向き合い、音楽の対話を重ねながら、新鮮な気持ちで演奏をお届けしました。スタッフの方からは、「一回ごとに演奏の表情が異なり、変化が感じられた」とのご感想をいただき、聴いてくださる方の存在が、演奏に新たな命を吹き込んでくださっているのだと、改めて感じました。

翌週は恒例の《ワンちゃんと楽しむコンサート》が、御成門のピアノカフェ・ベヒシュタインにて開催されました。今回はシューベルトを中心に据え、彼の音楽が持つ静かな奥行きや、繊細な陰影を味わっていただけるよう心がけました。2公演を通して、演奏するたびに新たな魅力が立ち上がり、改めてシューベルトという作曲家の底知れぬ世界に引き込まれました。

月半ばには、新作CDリリースを記念し、有志のみなさまが企画運営してくださった、招待制の特別コンサートが開かれました。クラシック音楽が初めてという方も多くいらしたようですが、演奏が進むごとに空気が変わり、終演後には鳴り止まぬ拍手に包まれました。音楽がそれぞれの音楽経験を超えて、心を繋ぐ力をもっていることを改めて実感しました。

そして次は横浜・イギリス館でのリサイタルへ。“春”をテーマに、ベートーヴェン、ヴィヴァルディ、メンデルスゾーンといった作曲家の春を感じる作品を取り上げました。急遽、三曲目のアンコールに設けた写真撮影タイムでは、お客様の笑顔があふれ、会場全体があたたかな雰囲気に包まれました。

翌週は山梨へ。笛吹みんなの広場での野外コンサートは、思いがけず寒さが厳しく、ドレスは断念してセーター姿での出演に。演奏中には、なんと人生で初めて弦が切れるというハプニングも。すかさずピアニストの小林侑奈さんがソロの演奏でつないでくださり、私は舞台裏で急いで弦を交換。野外とは思えぬほどの集中力で聴いてくださったお客様に支えられ、忘れられない一日になりました。

その翌日は、山梨県立博物館の葡萄屋kofuカフェにて、寄贈されたピアノのお披露目コンサート。春を感じるプログラムとともに、特製スイーツも登場し、音と味で楽しんでいただく趣向でした。窓から差し込む穏やかな光に包まれ、心がほぐれていくようなひとときに。次回は夏に伺う予定ですので、また山梨の皆さまにお会いできるのが楽しみです。

月の締めくくりは、歌手・万里村れいさんのラストライブへのゲスト出演でした。

長年にわたり、舞台でも私生活でも多くを学ばせていただいているれいさんの特別な日。感謝と尊敬の想いを込めて演奏しました。れいさんがかつてステージで着ていらしたドレスに身を包み、背筋が伸びる思いでした。

今注目の若手ピアニスト・中瀬智哉さんとの初共演も叶い、心に残る一夜になりました。

4月は春の訪れとともに、心躍るコンサートが続きます。

まず4日には、資生堂創業企業・福原グループの新たな文化拠点「La Salle F」にて、ピアニスト小林侑奈さん、チェリストのグレイ理沙さんとのピアノトリオ。ベートーヴェンとメンデルスゾーンの名曲を、春の息吹とともにお届けします。

 

そして12日は、ピアニスト川口成彦さんとの《シューベルトシリーズ》の第一回目。モーツァルトのソナタ全曲演奏会の好評をきっかけに始まったこの新企画。

作曲家シューベルトが持つ奥深さ、陰影、そして温かな光を、音で丁寧に描いていけたらと思っています。シューベルトを得意とする川口さんとの対話から生まれる音の風景を、ぜひ味わいにいらしてください。

 

春の光とともに、皆様と会場でお会いできるのを楽しみにしております。

TRIO concert
2025年4月4日 (金) 18:30 開場 / 19:00 開演
La salle F (ラ・サールエフ)(日比谷)地図
共演:グレイ理沙(チェロ)小林侑奈(ピアノ)
前売り ¥5,000 / 当日 ¥5,500
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 変ロ長調 op.11 「街の歌」
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 op.49、他
シューベルトの詩情 Vol.1
2025年4月12日 (土) 13:30 開場 / 14:00 開演
渋谷美竹サロン 地図
共演:川口成彦(ピアノ)
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第二番
シューベルト:ヴァイオリンソナタ、他
Strawberry moon night クルーズ in Yokohama
2025年6月1日 (日)
受付 18:00 食事 18:30~20:00 出港 20:15  〜 ふねの上で音楽を 帰港 21:15
ディナー会場: 横浜ベイホテル東急 B1 プリンス
正装スタイルでお楽しみください。
甘酸っぱいストロベリーの香が漂ってきそうな横浜の夜
美しい夜景を見ながら、バイオリニス 鈴木舞さんの音色を楽しみましょう。
会員 ¥20,000 / 一般 ¥23,000
主催 一般社団法人 アジャッパ(Ajappa)
お問い合わせ・お申し込み
TEL: 075-406-1758(下川田)
鈴木舞&福原彰美デュオCD発売記念コンサート
2025年06月14日(土)15時開演
美竹清花さろん(渋谷)地図  
共演:福原彰美(ピアノ)
フランク:ヴァイオリンソナタ
ルクー:ヴァイオリンソナタ
詳細はこちら
日本演奏連盟「日本音楽遺産」東京公演
2025年7月12日(土)16:00開演(15:30開場)
東京文化会館 小ホール 地図
ヴィヴァルディ《四季》より「春」 ほか
詳細はこちら
みんなあつまれ!音の遊園地
2025年8月9日(土) 開場14:15/開演15:00
昭和音楽大学 テアトロ・ジーリオ・ショウワ 地図
共演:飯森範親指揮 パシフィックフィルハーモニア東京、松本志のぶ(司会)
サラサーテ:カルメン幻想曲 、ラヴェル:ツィガーヌ
4歳から入場可能
詳細はこちら
お問い合わせはこのメールにご返信ください。

レ・ゼール~翼

ヴァイオリニスト鈴木 舞とピアニスト福原彰美が満を持して録音!フランクとルクーの傑作ヴァイオリン・ソナタ2曲を、新結成デュオ「Les Ailes(レ・ゼール)」の記念として、長年磨き上げた渾身の演奏で届ける!

永遠の名曲、物語性あふれるフランス音楽のプログラム
ライブ感溢れる情感豊かな演奏をお届けします。
https://maiviolin.com/lesailes/

 

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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