ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.88

技術の、その先へ

生徒さんたちの発表会を開催しました。

年齢も、楽器歴も、人生の背景もさまざまな方々が、それぞれの音を携えて舞台に立つ姿に、何度も胸を打たれました。

 

日々、自分自身も演奏家として舞台に立っているからこそ、音楽とは「ただ音を正しく並べることではない」と痛感します。どれほど技巧的に優れていても、音に何も語るものがなければ、人の心には届きません。逆に、多少の揺らぎがあっても、真摯な意志や感情がこもった音は、確かに人の心を動かします。

その違いは、譜面には書かれていない、でも最も大切な部分です。

 

私はレッスンにおいて、ただ正確に弾けるように導くだけではなく、生徒たちに「語る力」を持ってほしいと願いながら向き合っています。

それは、技術を積み重ねた先に生まれるものですが、同時に、「何を伝えたいのか」「どんな音を鳴らしたいのか」という意志から始まるものでもあります。

たとえば、「この一音から、誰に何を感じてもらいたい?」「その音に、どんな気持ちが宿っている?」そんな小さな問いを一緒に考えながら、聴く人になにかを「語る」音楽へのお手伝いができたらと思っています。

出演者たちに寄り添って共演してくださったピアニストの正住真智子さんと

今回の発表会でも、一人ひとりの音の中に、その人なりの物語が確かに存在していました。

それは、ただ楽譜を読んで弾くこととは全く異なる、「音楽と向き合ってきた時間の重み」です。どんなに短い一曲でも、その裏には不安や苦労、そしてこれまで少しずつ積み重ねてきた日々があります。その軌跡が、音の中ににじみ出る。そうした瞬間に立ち会えたことは、何よりの喜びでした。

 

演奏を終えたあと、舞台から戻ってきたみなさんの表情は、それぞれに達成感と、少しの安堵、悔しさ、そして次への決意に満ちていました。

うまく弾けた、間違えてしまった、そうしたことももちろん無視はできないですが、それ以上に、「今できることを、最大限に表現しよう」と舞台に立つ姿勢そのものが尊く、演奏を通じて想いが伝わってきました。

 

音楽は、間違わずに弾くことよりも、「いま、この場所で、この人が、この音を鳴らしている」という、唯一無二の瞬間にこそ、音楽の核心が宿ります。

その一音が、誰かの心をふと照らす。だからこそ、音楽には尽きせぬ力があるのだと信じています。

 

発表会の最後には、講師として私自身も演奏いたしました。

習うだけでなく、「観て、感じて、盗む」ことも、音楽の学びの一部です。今もなお私自身が音に問い、挑み続けていることを、言葉ではなく背中で伝えられたら。そんな思いで舞台に立ちました。

この日のために努力を重ねた皆さん、そして温かく見守ってくださったご家族の皆さま、ご来場くださった皆さまに、敬意と感謝の気持ちでいっぱいになりました。

これからも、それぞれの歩みの中で、音楽、そして表現することが心の支えとなり、喜びや出会いを運んでくれるものであればと願っています。

今月は海外ツアーから帰国したその夜、羽を休める間もなく、横浜のクルージングコンサートへ向かいました。

小型の船にお客さまと一緒に乗り込み、夜風を受けながらオープンデッキで演奏を行うという、非日常的なひととき。

海風が衣装を揺らし、船の揺れとともに、まるで音楽も空間に乗って漂っていくような感覚がありました。

途中、空からひとしずく、またひとしずくと雨が降り始め、急遽デッキの屋根を閉じることに。屋根が低く、立って演奏することが難しくなったため、ソロの演奏では初めて、椅子に腰掛けて演奏しました。

至近距離でお客さまと目線をそろえた演奏は、まるで語り合うような親密さがあり、不思議と音に温度が宿るように感じられ、新鮮でした。また、コンサートホールとはまた違う、自然と共にある音楽の醍醐味をあらためて感じる機会となりました。

続いて訪れたのは、河口湖音楽と森の美術館。

薔薇が満開を迎える美しい季節のなか、山野江里依さんの心あたたまる文、Haruka Mittaさんの優しい絵による、親子愛を描いた絵本の読み聞かせとともに、小林侑奈さんとのデュオで演奏するというコンサートでした。

絵本の朗読は、演奏と演奏のあいだに挟まれるかたちで進行。語られる物語と、スクリーンに映し出された絵、そしてその絵本のテーマに寄り添うよう選曲したプログラムが、お話の情景がより立体的に浮かび上がるようで、音楽と言葉が互いに引き立て合う相乗効果を感じました。

6月14日には、渋谷の美竹サロンにてCD『翼』の記念公演でした。

共演はピアニストの福原彰美さん。

フランクやルクーといった情熱のこもった作品を軸に、女性作曲家による繊細な小品も交えながら、アルバムに込めた想いをお届けしました。

そのほかにも、メディアのサウンドトラック録音に参加したり、いつくかの華やかなパーティーで演奏させていただいたりと、分野や規模を越えて、さまざまな場で音楽を届けることができた充実の1ヶ月でした。

7月の最初の週末、5、6日には、小林侑奈さんとの名古屋・大阪公演が控えています。

プロコフィエフの華やかなソナタ、カルメン・ファンタジーといったダイナミックな作品に加え、名古屋ではヴァイオリンの楽器を聴き比べるコーナーもご用意しています。それぞれの楽器が持つ個性をじかに感じていただけます。お近くの方はぜひお越しください。

 

さらに、7月12日には、日本演奏連盟主催のコンサートに出演いたします。

母校・東京藝術大学の元学長であり、音楽家としてもお人柄の面でも深く尊敬する澤和樹先生が率いるオーケストラとの共演で、ヴィヴァルディ《四季》より「春」のソロを務めさせていただきます。室内楽からオーケストラまで、幅広い編成と内容で構成された、まさに“音楽の祝祭”ともいえるプログラムです。

 

その後も、山梨や宮崎など各地での演奏が予定されています。詳細は追ってSNSなどでお知らせしてまいります。

またさまざまな場所で、皆さまと音楽を通してお会いできるのを楽しみにしています。

鈴木舞 × 小林侑奈
ヴァイオリン&ピアノコンサート
2025年7月5日(土)13:30 開場/14:00 開演
島村楽器ららぽーと名古屋みなとアクルス店 スタインウェイルーム
プロコフィエフ:ヴァイオリンソナタ
サラサーテ:カルメン幻想曲、他
共演:小林侑奈(ピアノ)
お問い合わせ:島村楽器ららぽーと名古屋みなとアクルス店 TEL:052-659-1775
Graceful Concert Vol.72
-Violin & Piano- 鈴木舞・小林侑奈
2025年7月6日(日)13:30 開場/14:00 開演
島村楽器 グランフロント大阪店 店内ピアノセレクションルーム
プロコフィエフ:ヴァイオリンソナタ
サラサーテ:カルメン幻想曲、他
共演:小林侑奈(ピアノ)
詳細はこちら
日本演奏連盟「日本音楽遺産」東京公演
2025年7月12日(土)16:00開演(15:30開場)
東京文化会館 小ホール 地図
ヴィヴァルディ《四季》より「春」 ほか
共演:澤和樹(指揮、ヴァイオリン) ほか
詳細はこちら
みんなあつまれ!音の遊園地
2025年8月9日(土) 開場14:15/開演15:00
昭和音楽大学 テアトロ・ジーリオ・ショウワ 地図
共演:飯森範親指揮 パシフィックフィルハーモニア東京、松本志のぶ(司会)
サラサーテ:カルメン幻想曲 、ラヴェル:ツィガーヌ
4歳から入場可能
詳細はこちら
お問い合わせはこのメールにご返信ください。

レ・ゼール~翼

ヴァイオリニスト鈴木 舞とピアニスト福原彰美が満を持して録音!フランクとルクーの傑作ヴァイオリン・ソナタ2曲を、新結成デュオ「Les Ailes(レ・ゼール)」の記念として、長年磨き上げた渾身の演奏で届ける!

永遠の名曲、物語性あふれるフランス音楽のプログラム
ライブ感溢れる情感豊かな演奏をお届けします。
https://maiviolin.com/lesailes/

 

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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