今回の発表会でも、一人ひとりの音の中に、その人なりの物語が確かに存在していました。
それは、ただ楽譜を読んで弾くこととは全く異なる、「音楽と向き合ってきた時間の重み」です。どんなに短い一曲でも、その裏には不安や苦労、そしてこれまで少しずつ積み重ねてきた日々があります。その軌跡が、音の中ににじみ出る。そうした瞬間に立ち会えたことは、何よりの喜びでした。
演奏を終えたあと、舞台から戻ってきたみなさんの表情は、それぞれに達成感と、少しの安堵、悔しさ、そして次への決意に満ちていました。
うまく弾けた、間違えてしまった、そうしたことももちろん無視はできないですが、それ以上に、「今できることを、最大限に表現しよう」と舞台に立つ姿勢そのものが尊く、演奏を通じて想いが伝わってきました。
音楽は、間違わずに弾くことよりも、「いま、この場所で、この人が、この音を鳴らしている」という、唯一無二の瞬間にこそ、音楽の核心が宿ります。
その一音が、誰かの心をふと照らす。だからこそ、音楽には尽きせぬ力があるのだと信じています。
発表会の最後には、講師として私自身も演奏いたしました。
習うだけでなく、「観て、感じて、盗む」ことも、音楽の学びの一部です。今もなお私自身が音に問い、挑み続けていることを、言葉ではなく背中で伝えられたら。そんな思いで舞台に立ちました。