ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.89

【演奏家の旅路①〜ミュンヘンとパリにて

少し時間が経ってしまいましたが、この春から初夏にかけて巡ったヨーロッパ・中央アジア演奏旅行の記録を、綴り始めようと思います。音楽とともに移動しながら、出会いや文化に触れた濃密な時間は、言葉にするのに少し間が必要でした。

今回はその第一回として、旅の序盤、ドイツとパリでの出来事についてお届けします。

最初の滞在地はミュンヘン。旅の拠点として滞在するこの街で、まずはピアニストの柏本佳央理さんとのリハーサルが始まりました。昨夏に日本で共演して以来の再会でしたが、まるでつい先日まで会っていたかのような、久しぶりさを感じさせない再会でした。

 

リハーサル初日は、お互いのアプローチが予想以上に異なっていて、「どう進めていこうか?」と、思わず顔を見合わせるような場面もありました。でも、それがむしろ面白かったのです。お互いが持ち寄った解釈を尊重しながら再構築していく過程は、まさに室内楽の醍醐味。2日目には音の輪郭が少しずつ溶け合い、間合いも自然に近づいていく感覚がありました。

リハーサルの合間には、ミュンヘンの歴史ある美術館、アルテ・ピナコテークを訪れました。重厚な建物の中で出会う古典絵画の数々は、技術や構図の完成度はもちろん、時間そのものを内包しているようで、ただ鑑賞するというより、物語に向き合うような感覚になります。

宗教画に宿る祈り、肖像画に漂う人物の気配を眺めながら、「人が人を描く」という行為の重みを、音楽にもどこか通じるものとして感じずにはいられませんでした。

その後、私はパリへと移動しました。教会で行われた式典にて演奏をさせていただく機会があり、大切な節目の場で音楽を届けることができたのは、特別な時間でした。

石造りの教会に広がる豊かな響きの中、静かに音が空間を満たしていく感覚は、コンサートホールでの演奏とはまた異なる質感をもち、列席された方々の温かな空気に包まれながら、「想いを音に託す」という行為の意味をあらためて感じることができました。

パリ滞在中は、可能な限り文化に触れる時間も持ちました。

ルーヴル美術館では、世界的に知られる作品の数々を「本物」として目にしたときの感覚に、しばらく立ち尽くすような時間がありました。

あのモナ・リザは、想像よりも小さな作品でしたが、驚くほど強い眼差しを湛えており、内側を見透かされているような気持ちになりました。

ほかにも歴史的な絵画が持つ「時の厚み」に息を呑みながら、ただ有名だからではなく、なぜこれらの作品が今も残り続けているのかを、肌で感じる時間になりました。

そして、まったく異なる刺激を与えてくれたのがピカソ美術館です。

写実からキュビスム、抽象、彫刻や陶芸にいたるまで、年代やスタイルを超えて展示された作品群は、ピカソという一人の芸術家が「変化し続けること」そのものを人生の核に据えていたことを教えてくれるようでした。

常に新しい表現に挑み、自らを更新し続けた姿勢は、芸術家としての理想のひとつかもしれません。

展示を前にしながら、かつて恩師の清水高師先生が「常に脱皮を繰り返すピカソのようでありなさい」と話してくださったことをふと思い出しました。

当時はその意味を深く理解できていませんでしたが、今になって少しずつ腑に落ちてきた気がしています。

また、幸運なことに、パリ・オペラ座でプッチーニ三部作(『ジャンニ・スキッキ』『外套』『修道女アンジェリカ』)を観る機会にも恵まれました。

もっとも有名な『ジャンニ・スキッキ』を最初に置く構成には少し驚きましたが、公演を観てその意図に納得。

最後に据えられた『アンジェリカ』では、終盤の宗教的モティーフに乗った切実な心の叫びが会場を包み込み、観客の呼吸まで音楽に吸い込まれていくような感覚がありました。気づけば、自然と涙がこぼれていました。

街を歩き、美術に触れるなかで、「美とは何か」を問いかけられているような時間でもありました。

特にパリでは、食そのものからも“芸術”や“感性”を受け取る場面が多くありました。香り、色彩、盛り付け、器、空間、すべてに「余白」があり、一皿の料理が文化的体験そのものであることを思い出させてくれました。

そこには、フランス音楽にも通じる“間”や“エスプリ”のようなものが存在していました。

 

パリ滞在で芸術を「浴びる」ようにして過ごした時間は、演奏家としての自分を再構築するような時間でもありました。

日常や経験のすべてが、少しずつ今の自分をかたちづくっている。文化や生活、演奏活動すべてが地続きであるということ。

表現するとは、自分の内にあるものだけで完結するのではなく、外の世界にどれだけ“開かれる”ことができるかでもあるのだと、あらためて気づかされた数日間でした。

次回は、ドイツに戻ってからの3つのコンサートについてお届けします。

ポツダム、アッシュハイム、そしてミュンヘンでの公演。どうぞお楽しみに。

ここからは活動報告です。

7月の幕開けは、名古屋と大阪でのコンサートから。島村楽器さん主催のイベントにて、小林侑奈さんとの共演で、複数の楽器を聴き比べながら演奏をお届けしました。個性豊かな楽器たちが一曲ごとに響きの違いを見せ、改めて「楽器とは語る存在なのだ」と感じる機会となりました。

その翌週は、日本演奏連盟の主催による公演に出演。ヴィヴァルディ《四季》より「春」のソロを務め、ハイドンの交響曲ではコンサートミストレスとして演奏に加わりました。第一線で活躍されている素晴らしい演奏家の皆様との共演は、刺激に満ち、多くの学びを得る貴重な時間でした。

続いて訪れたのは山梨。山梨県立博物館の葡萄屋カフェにて、小林侑奈さんとともに、スイーツとのコラボレーションコンサートに出演しました。今回のテーマは“桃”。公演前には桃農家の方から直接お話を伺い、水や土壌によって味や香りが変わること、葉からも甘い香りが漂うことを知り、大いにインスピレーションを受けました。急遽プログラムにも桃を連想させる曲を加え、その土地ならではの彩りあるひとときとなりました。

その翌週は、南へ飛び宮崎へ。チリ出身のギタリスト、アレクシス・バジェホスさんとのデュオで3公演を行いました。どの会場でも温かく迎えていただき、園児に向けた最終公演では、子どもたちが音楽に合わせて全身で踊ったり手を叩いたりと、心からの反応を返してくれたのが印象的でした。

7月最後のステージは大阪・関西万博。チリパビリオンにて、アレクシスさんとのデュオで、この日のために書き下ろされた新作や、南米の音楽を中心に演奏しました。展示やスタッフの皆さんの温かなお人柄にも触れ、以前チリで演奏した記憶が蘇り、またあの地を訪れたいという気持ちが一層強まりました。

8月は、オーケストラとの共演でスタートします。飯森範親先生指揮、パシフィックフィルハーモニア東京との共演で、《ツィガーヌ》《カルメン幻想曲》を演奏いたします。特に《ツィガーヌ》は、小学生の頃に初めて弾いたときから、いつかオーケストラと演奏したいと願っていた作品であり、長年の夢がようやく叶います。お子さまもご入場いただける公演ですので、ぜひご家族そろってお越しください。

 

17日には恒例となった「愛犬と一緒に楽しめるコンサート」が開催されます。夏らしく、スペイン語圏の情熱的な音楽を中心にお届けする予定です。

 

21日には再び万博の会場へ。13時よりフェスティバルステーションにて、絵本未来創造機構さんとのコラボレーションステージに出演します。

 

そして月末からは、海の上でのコンサート、クルージング船内での演奏が控えています。どんな出会いや風景が待っているのか、今から胸が高鳴っています。

 

会場で皆様にお会いできるのを楽しみにしております!

みんなあつまれ!音の遊園地
2025年8月9日(土) 開場14:15/開演15:00
昭和音楽大学 テアトロ・ジーリオ・ショウワ 地図
共演:飯森範親指揮 パシフィックフィルハーモニア東京、松本志のぶ(司会)
サラサーテ:カルメン幻想曲 、ラヴェル:ツィガーヌ
4歳から入場可能
詳細はこちら

with DOGs Salon Concert Vol.9

2025年8月17日(日)

【第1部】開場 11:00 / 開演 12:00

【第2部】開場 15:00 / 開演 16:00

ピアノカフェ・ベヒシュタイン(御成門)地図

共演:則行みお

ピアソラ:リベルタンゴ、オブリビオン

ファリャ:火祭りの踊り、他

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鈴木舞 大萩康司 デュオ・リサイタル

2025年9月19日(金)開場 18:30 / 開演 19:00

渋谷美竹サロン 地図

共演:大萩康司(ギター)

パガニーニからピアソラ、そしてケルトの彼方へ

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詩と夢幻、そして革命

ラヴェル生誕150年 フォーレ生誕180年に寄せて

2025年9月21日(日)開場 13:30 / 開演 14:00

ギャラリーカフェ ラルゴ(埼玉県)地図

共演:小林侑奈(ピアノ)

ラヴェル:ソナタ第2番、ハバネラ

フォーレ:ソナタ第1番、シシリエンヌ、ロマンス 他

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問い合わせ先・ご予約

 lalalasalon.ab@gmail.com 080-3098-8087

秋風のソナタと弦の雫

〜耳で味わうワインと食、舌で聴くメロディ〜

2025年10月18日(土)(小雨決行・荒天中止)

①11:00〜11:25 ②12:00〜12:25

③13:00〜13:25 ④14:00〜14:25

笛吹みんなの広場(山梨県笛吹市)地図

共演:小林侑奈(ピアノ)加藤文恵(チェロ)

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お問い合わせ

ふえふき芸術文化のまちづくり実行委員会

080-3091-7184 ongaku@usewama.com

詩と夢幻、そして革命

ラヴェル生誕150年 フォーレ生誕180年に寄せて

2025年12月12日(金)開場 13:30 / 開演 14:00

大阪市中央公会堂 中集会室(3F)地図

共演:小林侑奈(ピアノ)

ラヴェル:ソナタ第2番、ハバネラ

フォーレ:ソナタ第1番、シシリエンヌ、ロマンス 他

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問い合わせ先

Klub Zukunft info@musik-chateau.com

田辺恒弥 作品展 ― ソロと室内楽の領域 ―

2025年12月24日(水)開場 18:30 / 開演 19:00

東京文化会館 小ホール(上野)地図 

共演:對馬佳祐(ヴァイオリン)木下雄介(ヴィオラ)松本卓以(チェロ)

バッハ(BWV768)による五つの変容、他

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お問い合わせはこのメールにご返信ください。

レ・ゼール~翼

ヴァイオリニスト鈴木 舞とピアニスト福原彰美が満を持して録音!フランクとルクーの傑作ヴァイオリン・ソナタ2曲を、新結成デュオ「Les Ailes(レ・ゼール)」の記念として、長年磨き上げた渾身の演奏で届ける!

永遠の名曲、物語性あふれるフランス音楽のプログラム
ライブ感溢れる情感豊かな演奏をお届けします。
https://maiviolin.com/lesailes/

 

2020年から「鈴木舞 後援会」が発足し、会員の募集がスタートしました。

後援会主催コンサートへの無料ご招待や懇親会へのご案内、一部コンサートの優先案内・優先予約、オーディオ付きお誕生日メールなど盛りだくさんの特典をご用意して入会をお待ちしております。  
詳細はこちらからご覧ください。

https://maiviolin.com/fanclub/

鈴木舞 デビューアルバム
マイ・フェイバリット ”Mai favorite”
ピアノ:實川風、山田和樹

大好きなフランス音楽の中でもお気に入りの曲を集めました。タイスの瞑想曲 などの名曲から、愛と死、そして政治をもテーマに据えたプーランクのヴァイオリン・ソナタ。銘器、アマティの音色でお楽しみください。

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