こんにちは!
Sygnite Tokyoの小林です。
ある程度大人の年齢に達すると、時は濁流のような速さに感じられるというのは周知の
ことですが、今の私にとって、それはまるで「地面を制御できずに直滑降しているスノーボーダー」のような感覚です。
もう少し雪のにおいを感じ、風に乗り、風景に溶け込むように滑ることが出来たら、
それこそがスノーボードの、いや人生の醍醐味なのではなかろうか、と。
今一度呼吸を整え、板をはめ直し、リフトに乗るところから始めてみよう。
そんな風に思っています。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます!
(年始のご挨拶の遅れも、時との一体感が損なわれていたからです。すみません。)
さて、今年の1本目は、よくあるお問い合わせの一つ「建物の権利」についてです。
私がこの業界に入って最初に知ったオモシロ知識は「ライトアップしたエッフェル塔は
許可がいる」ということでした。これは正確には建物の権利ではなく、照明デザイナーの権利が関わってくるからなのですが、これを機にムクムクと知識欲が高まったのを思い出します。
■Sygniteによくいただく建物に関するお問い合わせTOP3
・竣工してから50年が経過しているので、著作権もしくは肖像権は切れていると思う
のですが・・
・背景に建物が「映り込んで」いるのですが、その場合は風景という理解でいいですか?
・渋谷のスクランブル交差点で撮影するのですが、何に気を付けたらいいですか?
それでは広告に建物を使用する場合の「法的な」留意点と「実務的な」留意点について、いくつか挙げてみます。
1)著作権:
まず、前提として、すべての建物が著作権で保護されるわけではありません。
さらに、建物の著作権侵害(=複製権の侵害)は、同じ建物を建立することであって、
撮影して使用することは複製にあたりません。
また、どんな建物であれば著作権が認められるのかというと、ある程度創作性が
認められる場合は「建築の著作物」として著作権の保護対象になります。
さらに、非常に創作性の高い建物は、「美術の著作物」としても守られる可能性が
あります(!)
美術の著作物でもある場合は、撮影して使用することは複製にあたりますので、商用利用する場合などは権利者の許諾が必要になります。
下記の事例は、ロンドンの30 St Mary Axeという建物(通称はピクルスなどに使用する
小さいキュウリを意味する「The Gherkin」)。
本件では建物所有者と建築家に許諾を得ています。

2)商標権:
商標権で保護されている有名な建物で広告使用頻度が高いものに東京タワーやスカイ
ツリーがあります。ビルの名称や建物のシルエットが登録されています。
商標権というのは、商標に含まれる「営業上の信用」を保護する制度であり、デザインを保護するものではないので、法的には商標が映り込んでしまった「風景」は、商標権の
侵害になることはありませんが、これらの建築物には問い合わせ窓口があり、使い方次第では許諾、対価が発生しますので、気を付けたい点です。
3)建物の利用規約:
建物の所有者には施設管理権があり、それに基づいて敷地内での撮影や無許可での撮影を認めていない建物もあります。こればっかりは問い合わせをしないとわからないことなので、ひと手間ではありますが、所有者に確認した方が良いと思います。
既存素材の場合はフォトグラファーが建物側のルールを把握せずに撮影されている場合も考えられますので、敷地内で撮影された素材は注意が必要です。
4)その他:
最後に、法的な視点とは異なる点もありますが、実務上は配慮すべき点について触れて
おきます。
・城郭、神社仏閣などの古い建物でも、無許可での使用に厳しい建物がある。
・フリーライド(建物の知名度にただ乗り)のような使い方もトラブルに繋がる可能性が
ある。
・オフィスビルや商業施設の場合は、建物のテナントが広告主とバッティングする可能性
がある。
・建物自体を素材から決してしまう対処は避けた方が無難です。
以上が許諾の必要性を検討する際の留意点として挙げられますが、難しいのは「その他」にいくつか挙げたように、必ずしも法的な正しさだけでは、実務上のリスクヘッジとしては足りていないところです。
広告主を法的なリスクのみならず、想定できるリスクから守る為にも私たちは経験を
活かし、現実的な対応をしなければならないのだと思います。
風景と解される使用、映り込みに関しての許諾は不要ですが、お話を伺ったり、企画内容を拝見すると、そうとは解せないケースも多い印象があります。
「これは風景です。映り込みです。」と自己暗示をかけないように(笑)相手方の視点にたって検討をすることも大切なようです。
本日はここまで。
次回をお楽しみに!