こんにちは!

Sygnite Tokyoの小林です。

 

すっかりご無沙汰してしまいましたが、皆様お変わりないでしょうか。

「Newsletter、楽しみにしています」(=はよ、書けや。) という、圧とも励ましとも

取れるありがたい声に背中を押され、ようやく筆を取った次第です。

 

ただ、怠けていたわけではないんです。(自白も同然)

<どんなテーマがいいかな~>に時間をとられ、<広告でのAI使用って、増えたから

その辺を取り上げようかしら>などと、少し関連資料を読んでいる間にもテーマの特性上、どんどん情報が更新され・・・・・汗。

 

そういうわけですので、このテーマはあっさりと手放して次回以降に譲ることとし、

本日は、AIテーマの前に理解しておくべき、「複製権」 について整理してみようと思います。

 

 

広告制作において頻出の「複製権」(もしくは「翻案権」)。

馴染みはあるものの、漠然とした理解のままでいたなぁ、という方はMust-read!!!

 

❶「複製」とは:

 

改めて問われても戸惑ってしまうわ、というくらい当然に、コピー機でコピーする、模写するといった複写行為が浮かびますが、どうも、それだけではないようです。

 

「複製権」は、著作者に与えられた最も基本的な権利であり、全ての著作物が対象となります。

手書き、印刷、写真撮影、複写、録音、録画、パソコンのハードディスクやサーバーへの蓄積など、

その方法を問わず、著作物を「形のある物に再製する」(コピーする)ことに関する権利です。

このような行為を行えば、著作者の複製権が働きます。また、「生」の講演を録音、筆記したり、「生」の楽曲等を録音するような行為もこの複製権が働きます(第21条)。 なお、脚本等の演劇用の著作物の場合は、それが上演・放送されたものを録音・ 録画することも、複製に当たります。また、建築の著作物に関しては、その「図面」 に従って建築物を作ることも、建築の著作物の複製に当たります。

 

出典:文化庁HP

おお!実に様々な「複製」行為が列挙されています。

一般的に思い当たる「複製」よりも多くの行為が、複製なのですね。

 

ちなみに、複製とセットで覚えたい「翻案」は、既存の著作物を用いるところまでは一緒ですが、その上で新たな創作性が認められる別の著作物を創作することをいいます。

 

*複製=デッドコピーだけが複製なのではなく、多少の修正・増減などによって、差異があったとしても、

既存の著作物の内容や形式を知覚させるものは、複製となります。

 

*翻案=既存の著作物を元にして、新たな著作物を創作すること。(小説を元にした映画など)

つまり、新たな創作性がある場合は翻案となり、無い場合には複製ということになります。

 

 

❷「複製権」の侵害とは:

 

複製とは何なのかが、なんとなくわかってきました。

つまり、これらの行為を行う際は、著作者の許諾を得ずに行ってしまうと、著作者の持つ複製権を侵害してしまうわけですね、ふむふむ。

 

それでは、複製をしたわけではなく、「たまたま、似たものができてしまっただけなの」という

場合はどうでしょう。特に、エンブレム、ロゴマークというような、表現の制約が多い制作物は、似通ってくるリスクが高そうです。

 

「結果がすべて、それも侵害♪」 なんて言われた日には、創作行為自体が薄氷を踏むようなものになってしまい、似たものが既に世に出ていないかサーチする担当、という新職種が生まれ、ネットという広い海を果てしなくさまようことになりそうで、嫌すぎます。

(簡単サーチで見つかるようなものは、「李下に冠を正さず」 and 「君子危うきに近寄らず」ということで、避けるに越したことはありません)

 

ある有名な判例(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件)で、複製と言うためには2つの要件を満たしている必要があるとされました。

 

その一つ目は、「同一性」。

再現のみならず、「その内容及び形式を覚知させるに足りる」程度の類似性があることをいいます。

 

そして、二つ目が「依拠性」。

平たく言うと元ネタがある場合は、依拠しているということになります。

 

つまり、偶然似たものが出来上がっただけで、参考にしたものが無かった場合は、侵害にはならない、と考えられるわけです。

ただし、「オレは本当に知らなかったんや~!」という主張だけで、そこに合理性が無ければ認められませんので、あしからず。

 

 

❸「アイデア」と「表現」:

 

さて、それでは脳が温まってきたところで、ボチボチ本題です。

複製行為がどういうものなのか理解し、侵害要件までわかったところで、二つの裁判事例を

見てみましょう。

 

                     【金魚電話ボックス事件】
 

現代美術家の山本伸樹さん(原告)が、1998年に制作・発表した作品「メッセージ」と、京都の芸術大学の

学生たち(アーティスト名「金魚部」)の作品が元となった(長くなるので、経緯は端折ります)「金魚電話

ボックス」(2011年作)が類似しているということで、裁判になった事例です。

原審は侵害を認めませんでしたが、高裁では翻って、侵害を認めました。

 

左:原告の作品

右:被告の作品

 

出典:金魚電話ボックス問題と「メッセージ」

 

続けて、もうひとつ。

 

 

                       【マンション読本事件

 

大和ハウス工業の分譲マンションの販促のために制作された小冊子「マンション読本」のために、制作を

委託されたグラフィックデザイナーが、「独り暮らしをつくる100」(文化出版局)の挿絵イラスト(左)を

参考にして、描いたイラスト(右)。左の挿絵を描いた原告が、大和ハウス工業と広告代理店を提訴した事件。

こちらは、侵害は認められませんでした。

 

左:原告のイラスト

右:被告のイラスト   出典:裁判所HP

 

 

 

皆さんは、これらの事件についてどう思われましたか?

個人的にはどちらの事件も、楽勝で著作権侵害でしょ!という印象を持ちましたよ。

しかし、1つ目の事件の原審は侵害を認めず、2つ目の事件も侵害には当たらないという

判決(驚)。

著作権、奥が深すぎ君。

 

ここで一旦、著作物の定義を思い出してみます。

<思想や感情を創作的に表現したもので、芸術の範囲に属するもの>でありました。

 

「思想や感情」はアイデア、学説、画風、書風、手法、着想等が含まれ、これらを「表現」した

ものが初めて、著作物になるのであって、表現された状態に至っていないものは著作権では

保護されないわけです。

 

そのことを踏まえた上で、改めて一つ目の事件を見ていきましょう。

地裁と高裁の判断に違いが出たのは、まさに、「それはアイデアなのか表現なのか」問題に

起因したものでした。

 

出典:美術手帳オンラインMAGAZINE

 

 

なるほどぉ。

原審が「アイデア」に過ぎないとしたところを、高裁は「表現」としたわけです。

それだけでなく、逆に原審が「表現」とした、電話機の機種や色、電話ボックスの色などについては、高裁はその創作性を否定しました。つまり、原審と高裁の判断は、まるっと逆なのです。

面白いですね。

 

 

2つ目の事件に進みましょう。

 

こちらは、被告はもとより、裁判所も両イラストは「似ている」と感じており、かつ被告は、

原告のイラストを参考にしていますと認めているので、ほれほれ、例の同一性と依拠性共に兼ね備えているではないですか!なにゆえに非侵害???

 

 

原告は、以下を「独自の表現=創作的な部分」として主張しました。

 

極端なほどのなで肩/単純化したシルエット/顔と体幅が一緒/手足の先端が細くとがっている/足がハの字に開いた立ち方/六等身など。

 

しかし裁判所はこれらの点を、「人物をイラスト化、単純化する際のありふれた表現」であるとしつつ、このイラストの独自性は顔の部分にあるとし、結果、「だいぶ違うんじゃないでしょうか」という判断を下しました。

 

つまるところ、最初に似ていると感じた部分は著作権で保護される部分ではなかった、

いうことなのです。ありふれた表現まで著作権を認めて、1人に独占させることは認め

ません、ということなんですね。

 

なるほど、こちらの判例も勉強になります。

ちなみに人物のイラストの場合は、このように顔の描き方が争点になるケースが多いそう

です。

 

一つ目は、似ている点が「アイデア」なのか「表現」なのか、

二つ目は、似ている点が「表現」と言えるのか、という事例でした。

ぱっと見が似ていても、このケースのように侵害と認められるのは、なかなか簡単では

ないようです。

 

 

 

 
 

【オマケ♡】

マウリツィオ・カテラン作 『Comedian』
出典:Art Basel公式Instagram
 アンディ・ウォーホル作 『ブリロ・ボックス』

  鳥取県立美術館(2025年春 開館予定)が5点を

  計2億9145万円で購入

  出典:The Andy Warhol Museum HP

 

 

2019年開催のArt Basel Miamiという、ビエンナーレ(イタリア)、Tokyo Gendai

(日本)、フリーズ・ソウル(韓国)などと並ぶ、世界最高レベルのアートフェアで、$120,000で売れたバナナ(!)

 

スーパーで買った生のバナナをダクトテープで壁に貼っただけ。

Artとは、なんぞや!

 

カテランの所属ギャラリー曰く、「果物の形から、ダクトテープで壁に貼り付けられる角度、

ブースの正面と中央、はるかに大きな絵画が簡単に収まる可能性のある大きな壁に配置

されることまで、作品のあらゆる側面が慎重に検討された」 とのことです。

 

現代アートは、アイデアやコンセプトを楽しむ作品が多いように思います。

カテランの『Comedian』やウォーホルのブリロボックス、キャンベルスープ缶などが、そのいい例ですね。

 

そんな愛すべき作品たちは、著作権で保護されるのでしょうか。

それを模倣された場合は、どこが争点になるでしょうか。

バナナに至っては腐りますけれども。

 

実に難題と思われますが、アート、そしてアイデアを愛する身としては、作品のメッセージ、

背景なども込みで何とかならんでしょうか、と思います。

 

 

本日は、ここまで!

また遠くない次回をお楽しみに。

 

 

 


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