このように、商標登録されている建築物であっても、単にメタバースの背景としての表示であれば、おそらく商標権侵害にはならないと考えられます。
なぜなら商標権の侵害は、「出所を明示、又は他の商品・役務と区別するような使い方(いわゆる「商標的使用」)の場合」とされているからです。
よって、メタバース上で商標登録された建築物を店舗として使用し、物を販売する場合は「商標的使用」と判断されるのではないかと思います。
(3) 意匠
意匠権とは、デザインを保護する権利ですが、2020年4月から建築物や内装も意匠登録することができるようになりました。
意匠権は、登録意匠と同一又は類似の意匠に及び、意匠の「使用」とは、その用途や機能に従った使い方で用いることをいいます。現実世界の建築物や内装は、リアルな生活空間ですが、メタバース上の建築物や内装では実際の生活はできません。
よって意匠登録された現実世界の建築物や内装を表示しても、用途や機能が異なるため、意匠権侵害にならないのではないかと思います。
【アバター】
(1) 著作権 / 肖像権
メタバースでは、ユーザーの分身としてアバターが様々な活動を行います。
アバターのデザインを考えたり、選んだりするのはメタバースの楽しみの一つですよね。
自分はいつも空間に紛れるような地味なキャラクターを作りがちです。
スパイなどへの憧れが出てしまうのではないかとひそかに思っています(笑)
現実世界の人物には誰でも肖像権があり、タレントなどの著名人にはパブリシティ権(肖像を商業的に利用する権利)もありますので、自分のアバターとして、他人の肖像を使えば、肖像権の侵害になるでしょうし(なりすまされて、あんなことや、こんなことをされたりするのは考えただけでも怖いですよね)、既存のキャラクターなどを許可なく使用した場合は当然、著作権侵害となります。
では、オリジナルで作成したアバターを使う場合はどうでしょう?
完全にオリジナルのアバターであれば、作った人に著作権が帰属すると考えるのが一般的かと思いますが、多くはメタバースの運営者が用意した各種パーツを組み合わせて作るアバターだったりします。
その場合、使用者は単に組み合わせただけと解され、運営者に著作権は残されるということも考えられますので、利用規約の確認も必要です。
(2) 実演
アバターは歌ったり、踊ったりすることができます。
バトルロイヤルゲーム「Fortnite」内で2020年4月に行われたTravis ScottのバーチャルLIVEは10分にも満たない尺だったにも関わらず、バーチャルであることを存分に活かした技術を用い、同時接続数1230万を記録し、話題になりました。
こうした著作物の伝達行為は、著作隣接権(実演者などの権利)として保護される可能性があります。
著作権法上の「実演」は、著作物を、演劇、舞踏、演奏、歌唱、口演、朗詠その他の方法で演ずることのほか、著作物を演じてはいないが、芸能的な性質をもつ行為(例:奇術、曲芸、腹話術、物真似)も含まれます。
アニメにはキャラクターを演じる声優の音声が登場したりしますが、声優も実演家です。
であるならば、アバターを介しての歌唱も「実演」に該当する場合があると思われます。「竜とそばかすの姫」の主人公Belleなんて、Official YouTubeチャンネルをもっています。
では、ダンスなど体を動かす表現物についてはどうでしょうか。
現状では、プログラムとして組み込まれた動きなど、制限されていることが多いと思いますので、その場合は「演じる」といえないように思いますが、今後モーションキャプチャーなどにより、ユーザーの動きがダイレクトに反映されるようになれば、著作隣接権の保護対象になるのかもしれないという気がします。
ちょっと苦手なデジタル領域ですが、考えてみるのはいい勉強になりました。
ふぅ。
本日はここまで。
次回をお楽しみに!
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