吉野やよいさんの背中には褥瘡の痕、脇から下には手術の痕があります。それらが気になって結婚をあきらめていましたが、恋人ができて、思い切って背中の傷を見せました。
「大変だったんだね。やよいちゃんが思っているよりきれいだよ」と彼。そのとき、吉野さんは、かつて母が語ってくれた言葉を思い出します。
「いつかきっと、この傷を見ても、怖いとか言わない人に会えるよ。あなたが思っているよりも世界はずっと広くて、いろんな人がいるんだよ」
吉野さんは1989年、沖縄県那覇市で生まれました。10歳の時、主に小児や若い人が発症するユーイング肉腫と判明します。以来、東京や沖縄で治療を受けます。人工呼吸器を装着したまま2か月間も昏睡状態に陥ったり、肋骨3本を切り取って腫瘍を切除する難手術を受けたり……。
6年間の闘病を経て、MRI画像診断で再発は見られないと告げられました。後遺症に悩まされつつも、ときに周囲にカミングアウトしながら社会人として歩んでいます。
そんな吉野さんの著書『涙の向こうに花は咲く』を、闘病記出版に携わって20年以上の星湖舎・金井一弘さんが書評しました。あきらめなければ奇跡も起きる。吉野さんの軌跡は、がんと向き合う人々へのエールかもしれません。