カーボンニュートラルに貢献する経済学(辰野博一 ショートエッセイ)
私は学生時代、環境経済/エネルギー経済の分野を専攻しており、今でも、定期的にこの領域の知識のブラッシュアップをしています。先日、今年中公新書から出版された「入門 環境経済学」を読んでみました。

本書は、2002年に同タイトルで発売された書籍の「新版」として発売されています。大きく「環境経済学の基礎理論」と「日本の環境問題と環境政策」の2部構成ですが、「基礎理論」に関しては旧版の内容がほぼ踏襲されていると思われ、実際、20年前に学んていだ内容と相違はありません。

経済学において、環境問題は個人や企業の生産活動・消費活動が、市場を経由することなく特定、あるいは不特定の主体に影響を及ぼす「外部性」の問題として説明されます。例えば、自動車を走らせることで排出される二酸化炭素は、誰も費用を負担をしていません(市場での取引がありません)が、二酸化炭素が原因で起こる地球温暖化は、気候変動を引き起こして地球上の誰かが被害を受けます。このような、市場の外部で発生する費用(温暖化の被害)が外部費用(外部不経済)と呼ばれます。

この費用を、社会的に負担できるようにしたり、取引物の価格に外部費用を織り込んだ市場取引に変える(内部化する)ことで、排出者や消費者が排出(消費)を抑制するインセンティブを与え、結果的に社会的な総排出量に繋げるような仕組みをいかにデザインするのか(どのような政策を活用するか、新たな市場を形成するか)が、環境経済学に基づく政策の主要な論点となります。

「日本の環境問題と環境政策」では、新版において追加されたトピックの1つとして「カーボンプライシング」が取り上げられています。カーボンプライシングとは、二酸化炭素の排出に価格を付けて(実務的には、二酸化炭素の排出量を決める化石燃料中の炭素含有量に応じて価格付けして)取引物にすることで、市場取引によって社会からの排出量を適切な水準に近づけて行こう、という制度です。

カーボンプライシングは、炭素税、排出量取引といった形でグローバルに導入が進んでおり、日本でも2012年から「地球温暖化対策のための税」が、化石燃料に課されています。また、排出量取引については、昨年東京証券取引所で「カーボン・クレジット市場」の実証試験が行われ、2023年10月を目途に売買が開始される予定になっています。

しかし、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする)の実現は、カーボンプライシングのような経済的手法の活用や、それに伴う社会の変化だけでは到底不可能です。

例えば、二酸化炭素排出量の削減や地球温暖化の影響への対処に焦点を当てた技術はClimateTechと呼ばれており、こうした技術をどんどん実用化していくことが必要です。ClimateTechに取り組む企業やスタートアップに注目が集まっており、こうした企業の研究開発、事業化への取り組みに対する公的な支援や、投資が促進されるような政策をどのようにデザインしていくかについても、環境経済学が貢献できる領域であると思います。

今後、カーボンニュートラルの達成に向けて、環境経済学の知見がどのように活用されていくのか、是非注目していただきたいと思います。

【参考書籍】
・有村俊秀、日引聡「入門 環境経済学 新版-脱炭素時代の課題と最適解」(2023年、中央公論新社)

【参考URL】
・環境省HP「地球温暖化対策のための税の導入」詳しくはこちら→
・JPX日本取引所グループHP「カーボン・クレジット市場」詳しくはこちら→

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