キャリア発達とカウンセリングの分野で、ドナルド・スーパーとマーク・サビカスは、師弟関係として知られています。そしてこの二人は20世紀後半から21世紀にかけてのキャリア理論の発展に極めて大きな影響を与えたています。
スーパーが築いたキャリア発達の基礎を、サビカスが現代的な視点から発展させ、その理論は今日のキャリア支援の現場に深く浸透しています。ここでは、この二人の関係性と、その理論的連続性および発展について説明していきたいと思います。
ドナルド・スーパー:生涯にわたるキャリア発達の提唱
ドナルド・E・スーパー(1910-1994)は、キャリアを単なる職業選択ではなく、生涯にわたる発達プロセスとして捉え、「自己概念」と「ライフステージ」、「ライフ・キャリア・レインボー」といった革新的な概念を提唱したことで知られています。
スーパーは、個人が自身の能力、興味、価値観をどのように認識し(自己概念)、それが年齢や経験と共にどのように変化・発達していくか(ライフステージ)を重視しました。そして、人生における多様な役割(子供、学生、労働者、余暇人、市民、家庭人など)の組み合わせが、その人独自のキャリアを形作る(ライフ・キャリア・レインボー)と考えました。
彼の理論は、それまでの特性因子論(個人と職業の適合を重視する考え方)から、より包括的でダイナミックなキャリア観への転換を促し、キャリアカウンセリングに人間的発達の視点をもたらしました。
マーク・サビカス:スーパー理論の継承と発展
マーク・L・サビカスは、ドナルド・スーパーの最も著名な弟子の一人として、その理論的遺産を継承し、21世紀の社会状況に合わせて発展させました。
サビカスは、スーパーの薫陶を受けながら、自分自身の博士論文ではクライツやホランドといった他の著名な研究者からも指導を受けるなど、幅広い知見を統合していきました。スーパーの蔵書を全て受け継いだというエピソードは、二人の深い師弟関係と、サビカスが正統な後継者と目されていたことを象徴しています。
スーパーの死後、全米キャリア発達学会が発行した追悼書籍『D・E・スーパーの生涯と理論』では、サビカスがスーパーの伝記部分を執筆しており、師の生涯と理論形成の背景を深く理解し、後世に伝える役割を担いました。
キャリア・アダプタビリティ:師から弟子へと受け継がれた重要概念
スーパーとサビカスの理論的連続性を象徴する重要な概念が「キャリア・アダプタビリティ」です。これは、変化する環境や予期せぬ出来事に対して、個人が柔軟に対応し、キャリアを主体的に形成していく能力を指します。
スーパーが最初にこの概念の重要性を示唆し、サビカスがそれをさらに精緻化し、体系的な理論として構築しました。サビカスはキャリア・アダプタビリティを「関心(Concern)」「統制(Control)」「好奇心(Curiosity)」「自信(Confidence)」という4つの次元(4C)で捉え、現代の不安定な社会において個人がキャリアを切り拓いていくための具体的な指針としました。
キャリア構築理論:ナラティブ・アプローチによる現代的展開
サビカスは、スーパーのキャリア発達理論を基盤としながらも、社会構成主義やナラティブ・アプローチを取り入れた「キャリア構築理論」を提唱しました。これは、キャリアを客観的な事実の積み重ねとしてではなく、個人が自らの経験に意味を与え、ストーリーとして構築していく主観的なプロセスとして捉えるものです。
カウンセリングにおいては、「キャリアストーリー・インタビュー」という手法を用い、クライエントが自身の過去の経験やロールモデル、好きな言葉などを語ることを通じて、その人独自のライフテーマ(人生の主題)を見出し、未来のキャリア設計を支援します。
スーパーの理論が個人の内的な発達段階と自己概念に焦点を当てたのに対し、サビカスの理論は、個人が社会との相互作用の中で、いかに自己のキャリアを意味づけ、物語として創造していくかという点を強調しており、より個人の主体性と解釈の重要性を前面に押し出したと言えます。
まとめ:現代キャリア支援への貢献
ドナルド・スーパーとマーク・サビカスの師弟関係は、単に個人的なつながりに留まらず、キャリア発達理論の深化と発展における重要な礎となりました。
スーパーが提示した生涯発達の視点と自己概念の重要性は、サビカスによってキャリア・アダプタビリティという具体的な能力として磨かれ、さらにナラティブという現代的なアプローチを通じて、個人の主体的なキャリア構築を支援する理論へと昇華されました。
二人の業績は、現代のキャリアカウンセラーや教育者にとって不可欠な知識であり、変化の激しい時代を生きる私たち一人ひとりが、自分らしいキャリアを築いていくための灯台として、今もなお輝き続けています。