「プロティアン・キャリア」は組織に頼らず、個人の価値観や成長を軸に、主体的にキャリアを築いていく考え方です。この概念を提唱したのは本日紹介したダグラス・ホールです。その理論の背景には、実は彼自身の父親の経験が深く関わっていたのかもしれません。この話は
ホールの父親は、エンジニアとして教育を受け、大企業で順調にキャリアを重ねていました。40代で経営コンサルティング会社へ転身し、経済的な成功も収めます。しかしその裏で、あるプロジェクトのために家族と離れて暮らす日々を送っていました。仕事中心の生活、それは当時の多くのビジネスパーソンにとって当たり前の姿だったかもしれません。
転機は突然訪れます。父親が搭乗予定だった飛行機が墜落するという衝撃的な事故が発生したのです。幸いにも父親は偶然その便に乗り合わせておらず難を逃れましたが、この出来事は彼の人生観を大きく揺さぶりました。「もしあの飛行機に乗っていたら…」。一瞬にして全てを失う可能性に直面したことで、彼は仕事中心の生き方を見つめ直し始めます。
この強烈な体験を経て、父親はキャリアの舵を大きく切りました。家族との時間を何よりも大切にするため、自宅でできる技術営業やコンサルティングの仕事を始めたのです。それは、社会的な成功や経済的な豊かさだけではない、自分自身の内なる声に耳を傾けた結果の選択でした。
この話はホールが論文「The Protean Career: A Quarter-Century Journey」の中で紹介したものです。
ホールは、この父親の経験から、キャリアとは組織から与えられるものではなく、個人が主体的にデザインしていくものだという着想を得たのかもしれません。価値観の変化、予期せぬ出来事、そしてワークライフバランスの追求。これらはまさに、プロティアン・キャリアが重視する要素と重なるからです。
ホールの父親の物語は、私たち自身のキャリアを考える上でも示唆に富んでいます。時に立ち止まり、自分にとって本当に大切なものは何かを問い直すこと。そして、変化を恐れずに新たな一歩を踏み出す勇気。ホールの理論の根底には、そんな普遍的なメッセージが込められているのかもしれません。