キャリアコンサルティングの現場において、ジョン・ホランドの「職業選択の理論(RIASEC)」は最もポピュラーなツールのひとつです。ただ、単にクライアントにタイプを伝え、「あなたはこの仕事が向いています」と提示するだけでは、十分な支援とは言えません。
本記事では、VPI職業興味検査やSDS(自己探索)などの検査結果が出た「後」、どのようにコンサルティングを展開すべきか、具体的なプロセスの進め方を解説します。
ステップ1:結果の受容と自己認識の確認(主観との照合)
検査結果が出たら、まずはコンサルタントが解説する前に、クライアント自身がその結果をどう感じているかを確認することから始めます。検査結果はあくまで「仮説」であり、クライアントの「納得感」が最も重要です。
<具体的な問いかけ例>
「この結果(3レターコード)を見て、率直にどう感じますか?」
「ご自身の予想と合致していた部分はどこですか?」
「逆に、違和感を感じる部分はありますか?」
ここで「違和感」が出た場合こそ、深掘りのチャンスです。「なぜその検査項目を選んだのか」や「過去の経験」を問いかけることで、隠れた価値観や、本来の興味が環境によって抑圧されていないかを探ることができます。
ステップ2:六角形モデルを用いた構造的理解
次に、ホランドの六角形モデルを用いて、興味の構造を分析します。ここでは単なるタイプ判定だけでなく、以下の3つの観点に着目してフィードバックを行います。
1. 一貫性の確認
クライアントのトップ2〜3のタイプ(コード)が、六角形上で隣り合っているか、対角線上にあるかを確認します。
隣接している場合: 興味の方向性がまとまっており、キャリアの軸が定まりやすい状態です。
対角にある場合(例:芸術的(A)と慣習的(C)): 一見矛盾する興味を持っています。これは葛藤の原因にもなりますが、ユニークな強み(例:クリエイティブかつ几帳面)になり得るポイントです。「この異なる二面性を、過去の仕事でどう使い分けてきましたか?」と問いかけます。
2. 分化の度合い
数値の「高いもの」と「低いもの」の差が明確かを見ます。
未分化(全体的に平坦): 経験不足や自己理解がまだ進んでいない可能性があります。この場合、職業選択を急ぐのではなく、まずは多様な経験を積むことや、興味の棚卸しを優先します。
ステップ3:環境との「一致(Congruence)」の検討
ここがコンサルティングのポイントです。個人のパーソナリティ(P)と、職業環境(E)のマッチングを行います。
A. 現職との比較
現在の仕事(または直近の仕事)の環境コードと、本人のコードを照らし合わせます。
「今の職場環境は、あなたの持つ『社会的(S)』な欲求を満たせていますか?」
「ストレスの原因は、あなたの『研究的(I)』な資質に対し、職場が『企業的(E)』な成果ばかりを求めているからではないでしょうか?」
このように、不適応感の原因を理論的に言語化することで、クライアントは「自分が悪いわけではない(環境との不一致なのだ)」と理解し、自己肯定感を回復できます。
B. ジョブ・クラフティングへの応用
転職だけが解決策ではありません。今の環境の中で、自分のコードを活かす方法を模索します。
例:E(企業的)が高い事務職の場合 → 事務処理だけでなく、社内プロジェクトのリーダーに立候補してみる等の行動変容を促します。
※ジョブ・クラフティング(Job Crafting)は、与えられた業務を主体的に捉え直し、仕事のやり方、人間関係、認知(意味づけ)に工夫を加えることで、やりがいやモチベーションを向上させる手法です。2001年に米大学の教授らが提唱し、個人の「やらされ感」を解消してエンゲージメント向上やパフォーマンス強化につなげることで注目されています。
ステップ4:具体的行動計画の策定
最後に、3レターコードを”コンパス”として、次のアクションを決定します。
職業探索ツールとしての活用: 厚生労働省の「job tag(職業情報提供サイト)」などを使い、自身のコードに近い職業を検索し、具体的な職務内容をリサーチするよう促します。
「手掛かりとなる語句」の探索: コードに紐づくキーワード(例:Sなら「支援」「教育」)から、業界を絞らずに求人を探す視点を提供します。
まとめ:理論は「対話」のためにある
ホランドの理論を用いたコンサルティングのゴールは、適職を言い当てることではなく、「クライアントが自分の興味のパターンを理解し、自律的に環境を選べるようになること」です。
「六角形の地図」をクライアントと二人三脚で広げ、現在の立ち位置と進むべき方向性を定めるツールとして活用してください。