「どんな仕事に就けばいいんだろう…」 「このままで、私のキャリアは大丈夫だろうか…」
変化の激しい現代、私たちは常にキャリアに関する悩みを抱えています。そんな時、心にそっと寄り添い、大きな視点を与えてくれるのが、アメリカの著名なキャリア理論家、サニー・ハンセンが提唱した「統合的ライフ・プランニング(Integrative Life Planning, ILP)」です。
彼女の理論は、ただの机上の空論ではありません。その背景には、彼女自身の人生を揺るがすほどの、ある「旅」の経験がありました。
価値観が揺らいだ、インドでの体験
サニー・ハンセンは、アメリカ中西部のミネソタ州の農場で育ちました。地域社会の強い絆の中で、人々が協力し合って生きる姿を原風景に持つ彼女は、やがてカウンセラーとして多くの人々のキャリア相談に乗るようになります。
彼女の転機となったのは、1970年代、フルブライト奨学金を得てインドに長期滞在したときのことでした。アメリカという国で、「個人の自由な選択と自己実現」を前提としたキャリアカウンセリングを行ってきた彼女にとって、インドで見た光景は衝撃的でした。
そこでは、個人の意思決定よりも、家族やコミュニティの意向が強く尊重されていました。カーストという見えない壁や、女性たちが置かれた複雑な社会的役割も目の当たりにします。「キャリアは個人が主体的に設計するもの」という、彼女が持っていた価値観がいかに限定的な「アメリカン・ドリーム」に基づいていたかを痛感させられたのです。
自分の信じてきたキャリア観が、世界では決して「当たり前」ではない。このカルチャーショックこそが、ハンセンの理論を大きく飛躍させる原動力となりました。
「仕事」だけでは人生は描けない - 4つのLの発見
インドでの体験を通して、ハンセンはこう考えます。
「キャリアとは、単に職業(Labor)を選ぶことではない。その人が生きる文化や社会、そして人生における様々な役割と深く結びついているのだ」と。
この気づきから、彼女はキャリアをより包括的に捉えるフレームワークを構築します。それが、人生を構成する4つの重要な要素の頭文字をとった「4つのL」です。
- Love(愛): 家族、パートナー、友人など、他者との絆や愛情。
- Labor(労働): 報酬を得る仕事だけでなく、家事やボランティアなども含む。
- Leisure(余暇): 趣味や休息、心身をリフレッシュさせる活動。
- Learning(学習): 生涯にわたる学びや自己成長。
ハンセンは、これら4つのLをバランスよく、そして統合的に人生の中に位置づけていくことこそが、変化の時代における真のキャリア開発(統合的ライフ・プランニング)であると提唱しました。
インドの地で、仕事以外の要素(家族、コミュニティ、学び)が人々の人生にいかに大きな意味を持つかを肌で感じたからこそ、この温かく、人間味あふれる理論が生まれたのです。
あなたの「人生のタペストリー」を織りなすもの
私たちはキャリアを考えるとき、つい「Labor(労働)」の視点に偏りがちです。どの会社に入るか、どんなスキルを身につけるか、いくら稼ぐか…。もちろんそれらも重要です。
しかし、サニー・ハンセンは私たちに問いかけます。
「あなたの『Love』は、今どうなっていますか?」 「心から楽しめる『Leisure』の時間はありますか?」 「新しい『Learning』への興味を失っていませんか?」
彼女のインドでのエピソードは、私たちに固定観念から一歩踏み出し、自分の人生をより広い視野で眺めることの大切さを教えてくれます。キャリアとは、一本の直線ではありません。愛、労働、余暇、学習という4色の糸で、自分だけの「人生のタペストリー※」を織り上げていく、創造的な営みなのです。
もし今、キャリアに迷い、立ち止まっているのなら。一度、サニー・ハンセンの視点に立ってみませんか。仕事(Labor)の悩みから少しだけ顔を上げ、あなたの人生を豊かにする他の「L」に目を向けてみることが、思わぬ突破口になるかもしれません。
※タペストリー:風景・人物などの絵模様を織り出した綴織(つづれおり)。その壁掛け。