■Muggle: 新語を作る仕組み
もともと
'a person who possesses no magical powers' の意味で Harry Potterに登場する
muggle という単語は、2003年に英語辞書の権威である
Oxford English Dictionary に収録されている。(より一般的に
'a person who is not conversant with [〜に精通していない]
a particular activity or skill' の意で掲載されている。)
ベストセラー小説は時代ごとに生まれるが、作者の想像力・創造力によって作られた新語が「辞書に載る」という領域にまで達するためには、やはりその作品が
時代を経ても読み継がれていくと確信できるだけの魅力を放つ必要があるだろう。
文学作品から誕生した新語が英単語として定着した(よって、辞書にも収録されている)例として、真っ先に頭に浮かぶものといえば、『鏡の国のアリス』に出てくる
chortle:「(ガハガハと)嬉しそうに笑う 」がある。その意味では、ハリーポッターも、世界中の子どもたちに愛される文学作品として、アリスと肩を並べようとしている様を目の当たりにしているような気になってくる。
この
chortleという動詞は時代を超え、
Harry Potter and the Philosopher's Stoneの中でも使われている:
(Mr Dursleyが、朝「行ってきます」のキスをしようとするも、かんしゃくを起こしている息子 Dudleyの姿を見て)
'Little tyke,' chortled Mr Dursley as he left the house.
「しょうがない子だ」と言いながらも、嬉しそうに笑うと家を出た。
まだ見ぬ次の時代の名作の中では、J. K. Rowlingの創り出した単語が現れるのであろうか?
ことばのロマンスは尽きない。
さて、
muggle にせよ
chortle にせよ、新語・造語とは言っても全くでたらめに生まれたわけではない。むしろ、英語の語形成の規則に基づいているからこそ、英単語として「自然に」受け容れられ、定着するのである。
Muggle の場合は、
mug: 'a person who is stupid and easily deceived' に、「小さい」の意味の名詞を作る接尾辞の
-le を付けて作られた単語である。
一方
chortle は「混成語 (blend)」または「かばん語 (portmanteau word)」と呼ばれ、二つ折りの旅行かばんの両側に1語ずつ単語を詰めて蓋を閉めたかのように、
chuckle:「くすくす笑う」と
snort:「鼻を鳴らす」を合わせて作った単語である。
夢のような魔法も、正しい呪文 (
magic spell) を「
正しい発音で」言ってこそ効果を発する。
ことばとは、
muggle の日常世界からファンタジーの世界へとも言えよう。
魔法を学ぶなら Hogwartsへ。