Mai Suzuki violinist アーカイブホーム
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こちらは Mai Suzuki violinist アーカイブホームです。これまで配信されたニュースレターを閲覧出来ます。


2024.3 (Apr 2024)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.74 【チリでの音楽教育活動】 南米ツアーは、多くの出会いと刺激に溢れていました。コンサート活動だけにとどまらず、多くの教育活動にも積極的に携わり、学校を訪れ演奏することで学びの場を広げるアウトリーチ活動や、音楽を学ぶ学生たちに向けてマスタークラスに取り組みました。   マスタークラスでは、レッスンを一般の観客の前で公開するという、教える立場では初めての経験をしました。ヴァイオリンの生徒に対するソロのレッスンに加えて、ピアニストのダノールと共同で、アンサンブルの指導も行いました。広々としたステージに用意された講師用の椅子に腰を下ろすと、演奏するのとは異なる緊張感に包まれ、客席を見下ろしながら手に汗を握りました。 ダノールは私と同時に生徒を指導することについて、音楽の方向性などの意見の相違から、舞台上で対立し喧嘩に発展するのではないかと心配していました。 実際にマスタークラスが始まってみると、私たち二人の生徒たちへのアプローチが全く異なることに気づきま

2024.2 (Feb 2024)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.73 【1000人と30人のコンサート】 チリ南部のテムコでの公演を終え、次なる舞台は、サンティアゴから車で1時間半程の海沿いの街、ヴィーニャでした。カラッとした日差しが温かく、お天気にも恵まれ春のような陽気でした。 車で会場に向かっていると、歩道橋に掲げられた大きなコンサートの看板がお出迎えしてくれました。 3つめのリサイタルの会場は、チリで最初にできた音楽大学の歴史あるホールです。鮮やかな海が見渡せる立地に、美しく品格ある建築が立ち並んでいます。建物の内部、楽屋にも歴史を感ことのできるアンティーク調の美しい家具が置かれていました。 ステージに立つと、衣擦れの音まで拾いそうな繊細で豊かな音響を感じられました。程良い長さの残響が舞台と客席を包み込み、演奏中に会場の向こう側から返ってくる響きは、まさにインスピレーションの源となりました。 特にラヴェルのツィガーヌを演奏している時は、何度も演奏している曲にも関わらず、ホー

2024.1 (Jan 2024)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.72 【開始30分遅れのリサイタル】 南米のツアーでは、コンチェルト、リサイタル、学校コンサート、マスタークラス、お食事とのコラボイベント、パーティー演奏等、幅広い活動を行いました。   その中でも一番数が多かったのはリサイタルで、ピアニストのダノール・キンテロスさんと共に様々な地域、会場で計5回のデュオリサイタルを行いました。ベートーヴェンとプロコフィフのソナタを軸にしたプログラムを演奏。 会場の規模は、1000人超を収容できるような大ホールから、アットホームなサロンまで多岐にわたります。 最初のリサイタルの会場は、チリの首都・サンティアゴ市内にある厳かな雰囲気の教会でした。ちょうどチリ独立記念日の直後であり、会場は国旗の色を使ったデコレーションで彩られました。   季節は冬。石造りの教会の底冷えのする楽屋で気持ちを鎮めながら開演時間を待っていると、予期せぬ出来事がありました。開始を30分遅らせるとアナウンスがあったのです。 新聞の広告に

2023.12 (Dec 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.71 【旗を飾らないと罰金!? チリの独立記念日】 ペルー・マチュピチュから南米ツアーの拠点、サンティアゴに戻ったのは9月18日。この日はチリの人々にとって重要な日です。スペインからの独立を宣言した独立記念日で、街中は躍動感に満ち、さまざまな祭りや行事が催されます。   至る場所がチリの国旗のカラー、赤、青、白で飾り付けられ、多くの人々が家族や友人と共に集まり、食べて、飲んで、踊ってのイベントを楽しみます。 街中は国旗に溢れ、全ての家や建物には大きなチリの国旗が飾られていました。 驚くべきことに、国旗の高さや角度、向きなどが厳密に決められており、それに従って道路から見えるように飾ることが求められます。飾っていない家には警察が来て罰金を取られるそう。独立記念日に国旗を飾ることは国民の義務なのです。 お肉が大好きなチリ人は、独立記念日でもアサードと呼ばれるバーベキューが多く食べられます。なんとこの期間では、通

2023.11 (Nov 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.70 【神秘の地、マチュピチュ】 クスコ交響楽団とのコンサートの翌日は、音楽の余韻が心に残るクスコの街を後にし、神秘の地、マチュピチュに足を伸ばしました。 お昼前にホテルを出発し、大自然の景色を楽しみながらの電車とバスの旅。車窓は次第にアンデスの雄大な山々へと移り変わり、トータル7時間程かけてマチュピチュ村に到着しました。 そこで一泊し、翌朝更にバスに揺られること30分。ようやく遺跡の入り口に辿り着きます。   入場ゲートを越えると、時の流れを忘れてしまうような光景が拡がっていました。雄大な遺跡目の当たりにした私は、息を呑む美しさに心奪われました。時を超えた遺跡を歩くとインカ帝国の息吹が感じられ、遠い過去と現代が交差するタイムカプセルにいるかのような、深い印象を受けました。 古代インカ帝国の遺跡マチュピチュは、ペルーのアンデス山脈に抱かれる雲上の都市です。ユネスコ世界遺産に名を連ねるこの古代都市の石造りの構造物は、その創造技術が現代にもなお解明されぬ

2023.10 (Oct 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.69 【標高3500メートルのモーツァルト】 ペルー、リマでのコンサートを終え、次の目的地はクスコ。標高3500メートルに位置する神秘的な街で、クスコ交響楽団とモーツァルトのコンチェルト第3番の共演です。   しかし、この高地の滞在は一筋縄ではいきません。訪れたことのある知人から聞いた高山病の辛い体験が頭をよぎり不安を感じ、出発前日から高山病予防のための薬を、祈るような気持ちで服用しました。   リマからフライトで2時間弱で、クスコに到着。ここから先は、周囲の人々の助言に従い、急激な動きを避け、身体に余裕を持たせるために、できるだけゆっくりとしたペースで行動することを心がけます。 空港を出ると、初めて見る風景が目の前に広がりました。周囲を取り囲むように聳え立つ山々は、赤みを帯びた土の色合いをしており、その斜面の木々は驚くほどまばらで、ほとんど生えていないように見えました。 起伏に富んだ地形の街には、赤い煉瓦造りや石造りの歴史的な建造物が立ち

2023.9 (Sep 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.68 【南米チリのLGBTQ】 出国日は、よく晴れた真夏日でした。 日本では直前までレッスンや打ち合わせをしていたため、冬の目的地への服装に悩みながら徹夜で荷造りしました。 南米チリの首都、サンティアゴまではシドニー経由のフライトでしたが、羽田空港に着いてみると、シドニー/サンティアゴ間のフライトは、ニュージーランドのオークランドの経由が含まれていると告げられました。 フライトを予約した時にはそのような情報はなかったので驚きましたが、急遽その場でニュージーランドの渡航申請を済ませ、30時間にもわたる長旅に出発しました。   お昼過ぎにサンティアゴに到着し、雪を被った美しいアンデス山脈に迎えられました。その日はこちらもよく晴れていましたが、冷たい空気に包まれました。南半球の季節は冬で、ダウンコートを着るような気候です。 時差ぼけを解消する1番の早道は、夜まで眠気を我慢して活動し、夜にぐっすり眠ることです。 荷物を置いたらスーパーマーケットに行き、現地な

2023.8 (Aug 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.67 【夏の日本から冬の南米へ】 今、世界中から注目を集める日本は、外国人観光客の増加に歯止めがかかりません。新型コロナの規制緩和と続く円安の影響で、独特の文化を持つこの国への旅行が世界的に人気を集めています。   多くの海外の友人達も、春から夏にかけて日本を訪ねてきて、久しぶりの再会を楽しみました。 中には日本に来るのは初めてという人も。外国人から日本はどのように見えているのでしょうか。 友人達に話を聞いたところ、共通して言われたのは、まず人口の多い混み入った環境に馴染めるか、生活できるのか不安だった、とのこと。 しかし実際に東京に来てみると、人口密度が高いにも関わらず、秩序があり効率的に世の中が機能していて、不快感なく驚いたそうです。 例えば満員電車の乗り降りでは乗客が列を作りスムーズに行われており人々は秩序を保っています。 多くの人が行き交う道でもゴミがほとんど落ちておらず、清潔です。 また、お金や物品を受け渡す時のスピード感には高い効率性を感じたそうです。

2023.7 (Jul 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.66 【真夏の氷点下】 暑い日が続いていますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか? 日本だけでなく、ヨーロッパでも熱波が襲っているようです。ドイツでは38度を超える猛暑とのこと、人々の暮らしは深刻な影響を受けています。   日本に暮らしているとエアコンがないなんて考えられないかもしれませんが、ヨーロッパではほとんどの家庭に冷房がついていないため、夏のピークをどうやって乗り越えるか、毎年大きな課題です。 私がヨーロッパで過ごしていた時は、日中の暑さから逃れ涼をとる方法を積極的に探し、湖やプールで泳いだり、標高の高い場所に出かけたりしました。 空気が乾燥しているため気温が下がる夕方には、川辺で簡易的なバーベキューを楽しんだり、夏ならではのアクティビティを楽しむ機会も多くありました。 中でも印象的だったのは、アルプス山脈の標高1500mにあるヴェルフェンです。ザルツブルクから1時間ほどの電車に乗り、ロープウェイを乗り継いだ先には、なんと世界最大級の氷の洞窟

2023.6 (Jun 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.65 【銘器の持つ魅力〜ヴァイオリン聴き比べ】 約400年前、イタリアのクレモナで、ニコロ・アマティという職人が創り出した楽器が現代のヴァイオリンの原型となりました。 アマティの弟子たち、ストラディヴァリウスやグァルネリウスなども才能を発揮し、この3人が作ったヴァイオリンは「三大銘器」と呼ばれています。 この伝統は現代にいたるまでヴァイオリン職人たちによって受け継がれ、 数多くのヴァイオリンが世に送り出されてきました。   ご縁があって、それらの様々な楽器を弾き比べるコンサートシリーズで演奏する機会に恵まれました。 約100年前、200年前、300年前に作られた、文化的遺産とも言えるヴァイオリンたちが年代順に並び、ストラディヴァリウスを含む6挺のヴァイオリンが一度に集まりました。 ヴァイオリンはまるで人間のようにそれぞれに個性があります。若い楽器は瑞々しく、真っ直ぐ突き進むような音色が響き、年を経るごとに丸みを帯びてふくよかさが増し、より強い独自の個性をもつよ

2023.5 (May 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.64 【洋上のコンサート】 豪華客船『飛鳥II』に乗ってきました。人生初の船旅は、船内のリサイタルに出演するための演奏旅行。緊張と興奮が入り交じった旅でした。共演ピアニストは、高校からの同級生で、大学でも一緒に学んだ仲間である浜野与志男さんです。 横浜から博多へ3泊4日の旅。17時に出航すると、セイルアウェイ・パーティーと呼ばれる出航時のセレモニーが港とデッキにて行われ、軽快な音楽の生演奏と共にシャボン玉が飛び交い、気分が盛り上がります。 デッキと対岸で人々が手を振り合う中ゆっくりと船が動き出す様は、まるで映画のワンシーンのようで感動的でした。   コロナ明けの今回の旅では、定員800名乗りの船に、これまで100人程度だった乗客が久しぶりに500人を超え、多くの乗客で賑わっていました。乗客の平均年齢は68.5歳と聞いていましたが、その数字を疑うほど若々しく、元気に満ちあふれていました。 乗船してすぐにコンサートの打ち合

2023.4 (Apr 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.63 【音楽業界にも広がる環境意識】 先日、統一地方選挙がありました。皆さまは投票に行かれましたでしょうか。 選挙後に公表された投票率を見ながら、投票率70%という高水準を誇るドイツでの選挙の様子を思い出しました。 投票率もさることながら、何よりも驚いたことは選挙期間中の人々の関心の高さで、選挙が近付くほどに政治の話題で持ち切りとなります。 街ではデモが当たり前のように行われ、友達と集まっても政策の話で盛り上がり、皆が意見を述べます。外国人の私にも選挙や政治の話をしてくれたこともよくありました。 環境やエネルギー問題への関心の高さも驚いたことの一つです。これらの問題にいかに取り組むかが政治の重要課題の一つとして大きく取り上げられています。 農薬から環境を守る「蜂を守ろう」と訴えるデモ。この後、昆虫保護法が法制化された。 そもそも、ドイツを含むEU圏ではエコに対しての意識が高いようです。私は特に電化製品の買い物の際に、そのことを実感しまし

2023.3- (Mar 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.62 【1学年40人の音楽高校】 3月、温かくなり桜の舞う季節となりました。この時期になると学校の卒業や受験合否の報告などが飛び交い、私も自分の高校や大学受験を思い出します。 私は東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校(通称:芸高)という、音楽に特化した高校で勉強しました。   芸高は、普通科の高校とは異なる部分が多くあります。 試験科目は一般の学科に加え、音楽科目の専科実技演奏、副科ピアノ演奏、ソルフェージュという楽譜を読んだり歌ったりする訓練、音楽理論の楽典、音楽を聴いて楽譜に書き起こす聴音等が受験内容でした。 また、附属高校といえども芸大にはエスカレーターで入れるわけではなく、外部の受験生と同じ条件での受験となります。 高校受験のための舞台練習 クラスは一学年にひとつで、教室にはグランドピアノがありました。人数は40人ほどで、そのうち半分くらいを占める地方出身者は、高校時代から既に独り暮らしです。ピアノ10人、バイオリンは

2023.2 (Feb 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.61 【子供たちに音楽を〜文化を大切にする社会へ】 ヨーロッパに住んで驚いたことの一つは、クラシック音楽が人々に広く浸透していることでした。 私が演奏家だと伝えると「クラシックには全く詳しくない」などと言いつつ、多くの人が有名なシンフォニーの主要な部分を知っていて、歌ってくれたりしました。 欧州では、まるで家族で食事にでも行くような気軽さで、コンサートへ出掛けます。 日常的に教会や個人宅でもコンサートが開かれ、音楽に触れる機会がとにかく多いのです。 クラシック音楽は元々ヨーロッパの音楽だから、と思われるかもしれませんが、果たして日本人は、日本の古典音楽をどれだけ知っているでしょうか。 文化的なものへの関心の高さは、幼少期にどれほど芸術に触れる機会を持てるかが大きなポイントのように思います。 欧州では国によって美術館は大学生以下が入場無料であったり、通常2万円程のコンサートの座席も学生以下であれば1000円程度でチケットを購入することが出来ます。 その

2023.1 (Jan 2023)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.60 【欧州のサロン文化〜美術と音楽の融合】 ヨーロッパにはサロン文化があります。啓蒙主義、ロマン主義時代のフランス貴族社会に特に栄え、多くの文化人の交流の場となっていました。 サロンには様々なアーティスト、例えば詩人や音楽家、画家、デザイナーなどが集まり、それぞれの作品が披露され、また、サロンの人間関係をきっかけに新たな芸術が生み出されることもありました。 ストラヴィンスキーや、サティ、ピカソ、シャネルもサロンを通して出会い、バレエ「プルチネルラ」や「パラード」が生まれています。   音楽以外の芸術に対しても関心が強い私は、そのような歴史に憧れており、芸術家の横のつながりがもっとあれば…と常々思っていました。 藝大生時代も美術学部とは全く交流がなく、これまでにも美術作家との繋がりはほとんどありませんでした。   そのような折、友人に誘われてあるギャラリーでのお茶会に足を運びました。そこには美術家と経営者が集い、ひとつのテーブルを囲んで紅茶を飲みなが

2022.12 (Dec 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.59 【演奏に点数をつけるということ】 バイオリニストとして、つい数年前まではコンクールに参加して審査を受ける側だった私ですが、この2022年、依頼を受けて審査員の席に座る機会が増えました。コンクールといえば、音楽家たちはみな命を削って挑むもの。私も厳しい練習の日々による心労や緊張からか、コンクール前には熱を出すこともあったものです。ひとたび出場が決まれば審査の日まで一意専心、何度も何度も繰り返し練習し、膨大な時間と精神力を費やします。そしてたった一回きりの演奏を審査される、とても厳しい世界です。そんな過去の自分を振り返りながら審査員席に着くと、この一瞬に全てを賭ける彼らを前にして、なんだか私の方が緊張してしまいました。 芸術に点数を付けるのは、大変難しいことです。何を基準につけたらよいか?曲の難易度を判断する程度ならいざ知らず、表現の方法には十人十色にそれぞれの良さがあり、絶対的な評価などあり得ません。また、技術面だけを取っても、難易度の高い曲を頑

2022.11 (Nov 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.58 【バロック時代のバイオリン】 木は呼吸をし、湿度が高いと膨張、乾燥すると収縮します。夏と冬の湿度の差が大きい日本では特に、季節の変わりめには専門の職人によるバイオリンの調整が必要になります。 いつもの楽器職人さんの工房に調整をお願いしに行くと、そこである出会いがありました。 私の前にいたお客さんが、何やらバロックスタイルのバイオリンを持っていました。 完全なバロックバイオリンを実際に見るのは初めてだったのでお話を伺うと、その職人さんにお願いして作ってもらった楽器だそう。それはなんと、私が弾いているアマティをモデルにして作られたとのことでした。 バイオリンは400〜500年ほど前から基本的構造が変わっていませんが、演奏する会場が広くなるにつれ、より大きな音が出るように改造されてきました。 バロックバイオリンとは、改造される前のバロック時代に使われていた形を再現したバイオリンです。 もともとは指板(指で抑える黒い板の部分)も木で作られていましたが

2022.10 (Oct 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.57 【ベル・エッポックー古き良き時代ー】 ニューヨークからいよいよ帰国する日、空港へ向かう前に本場のスターバックス(本当の本場はシアトルですが一応アメリカということで)にも行っておこうと思い、早朝にスタバに立ち寄りました。 ニューヨークのスターバックスには温かい食事のメニューもあり、朝食には十分でした。 お手洗いに行きたくなったので、席を取っておく感覚でストールだけを置いて席を立ったのですが、戻ってくると、そこには別人が座っていました。 ものの数分でしたが、警備員さんの一人が忘れ物だと思ってストールを保管しておいてくれたのでした。よく見回してみると、店内には何人もの警備員さんが目を光らせていました。 ニューヨークでは物を置いて席を立つと盗まれるリスクが非常に高いようで、親切心でそのようにしてくれていたのです。 さて、今日こそは帰国の便に乗り遅れるわけにはいきませんので、かなり早めに空港へ向けて出発しました。 時間にたっぷり余裕をもって空港駅行きの

2022.9 (Sep 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.56 【ニューヨークで遭遇した差別問題】 今月は、前回のニューヨーク滞在の続きからお話ししたいと思います。 カーネギーホールに続いて、今度はメトロポリタン・オペラに《蝶々夫人》を観に行きました。 イタリアの作曲家プッチーニが、長崎を舞台にしたアメリカの小説を元に作曲したオペラです。 芸者の蝶々夫人はアメリカ海軍兵のピンカートンと結婚しますが、ピンカートンはアメリカに帰ってしまいます。健気にピンカートンを信じて帰りを長崎で待っていた蝶々夫人ですが、ピンカートンはアメリカで他の女性と結婚していたことを知って絶望し、子供を残して自殺してしまう、というストーリーです。 一流のアーティストたちによる完成度の高い演奏により、どんどん物語に引き込まれ、オペラが終わった時には、悲しみで胸がいっぱいでしばらく放心状態になりました。 音楽の、人の心に訴える力の大きさを体感した舞台でした。 ところどころに、さくらさくら、君が代などの日本のメロディが挿入されています。 日

2022.8 (Aug 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.55 【テクノロジーとクラシック音楽】 今月はニューヨークでの出来事の続きからお話ししたいと思います。 フランス人の友人は一時帰国のためにパリへ発ってしまいましたが、お家には引き続き泊まっていてよいとのことでしたので、お言葉に甘えて日本行きの便に乗る日まで滞在させてもらうことにしました。 ニューヨークの街を歩いていると、アメリカが持つ底なしの自信のようなものが、あちこちで掲げられている国旗やたくさんの巨大な建造物など、街並みそのものからじわじわと伝わってきます。 夜は、せっかくニューヨークに来たのですから、音楽ホールの殿堂カーネギーホールに行き、コンサートを聴きました。 カーネギーホールは映画等の映像で親しんでいましたが、実際に会場に行ってみると、その重厚感や重ねられた歴史に感動しました。 アールデコ調の角張った、煉瓦造りの建物。ロビーとホールは白が基調で、アーチ型の装飾が印象的です。舞台を中心に馬蹄形のようなユニークな形の客席は、2800席もある

2022.7 (Jul 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.54 【トランジットの罠】 約3週間滞在したチリに別れを告げ、乗り継ぎのために北米ニューヨークのJFK空港に降り立ちました。 日本とチリの間には直行便が飛んでいないため、どうしてもどこかで乗り継ぎが必要なのですが、事件はここで起こりました。 イミグレーションが大混雑していて通過するのに3時間もかかってしまい、ようやく搭乗ゲートに到着した時には、乗り継ぐはずの便は私を置いて日本へ飛び立ってしまっていたのです・・・。 こうして次のフライトを待つために、思いがけずニューヨークで4日間を過ごすことになりました。 ニューヨークは初めての滞在でした。 スイス留学時代に一緒に室内楽を組んでいたフランス人の友人がたまたまニューヨークに住んでいたので、会えたらと思い連絡したら、なんと家に泊めてもらえることになりました。 彼女は現在、アメリカのクラシック音楽界でライターとして活動しています。 5年以上も会っていませんでしたが、ひとたび会って話し始めると、まるで留学時代

2022.6 (Jun 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.53 【世代を越えてつなぐ音】   今月はチリ滞在最後の1週間のお話からはじめたいと思います。 最後の週は、立て続けに3つのコンサートに出演しました。   1つ目は、サンティアゴの日本大使公邸にて、日本とチリの国交125周年を記念するコンサートで、ピアニストのダノール・キンテロスさんと共に、日本とチリに関連した楽曲とフランクのヴァイオリン・ソナタ、そしてサラサーテの《カルメン幻想曲》を演奏しました。 各国の外交関係者が出席していてさまざまな言語が飛び交い、会場は独特の雰囲気に包まれていました。大使の女性率が高く、世界では女性の政治参入が進んでいることを実感しました。 チリの大統領夫人もご出席くださったのですが、チリでは最近大統領選があったばかりで、勝利したのは若干36歳の大統領とあって、夫人はなんと私と同い年!しかもレストランでウェイトレスをしていたことがあったり、ベルリン留学の経験があるという、異色の経歴の持ち主でした。とてもフレンドリー

2022.5 (May 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.52 【生演奏でしか伝えられないこと】   さて、今回は前回に引き続き、チリのお話の続きから始めさせていただきたいと思います。 ロスラゴスのリゾートホテルでのコンサートを終えた後、いったん首都サンティアゴに戻って身支度を整え、翌日に南へ向かってバスに揺られること約5時間、コンスティトゥシオンという海沿いの港町に到着しました。コンスティトゥシオンでは、教会でデュオ・リサイタルを行いました。コンサートの前には、ヴァイオリンを学んでいる小学生くらいの子供達20人ほどと対話の時間が設けられました。好奇心旺盛な彼らの質問に答えるのは、私にとっても刺激的なことでした。なかには「あなたにとって音楽とは何ですか?」というような哲学的な質問も。自分のことを積極的に話してくれた子もいたりと、有意義な交流の時間となりました。 教会でのコンサートの翌日は、街中を少し観光しました。2010年のチリ地震で津波による大きな被害を受けてから、日本人

2022.4 (Apr 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.51 【地球の裏側〜チリへの旅】   ほぼ1年ぶりの海外渡航でした。 南米チリにて、大小合わせ8公演のツアーを行いました。 直前まで新型コロナウイルス関連で入国に必要な書類がチリ政府から発行されなかったり、往路も復路もフライトが欠航になったりと、スムーズにはいかない場面もありましたが、滞在中は多くの方々のサポートで大変充実した日々を過ごすことができました。 深夜にチリの首都、サンティアゴの国際空港に到着し、まずは検疫とPCR検査を受け、無事に入国。 チリは南半球にあるので、日本の北半球とは季節が真逆です。ちょうど4月は夏から秋に差し掛かる季節で毎日快晴、真夏のような気候で心まで太陽に照らされたおかげで旅の疲れは吹き飛びました。 チリで最初に食べた食べ物は、朝食で出されたアボカド。まずその大きさに驚き、さらに味にも驚かされました。濃厚でねっとりとしていて、バターを食べているような食感です。クリーミーで濃厚なその味わいは、今まで食べたどのアボカドよりも美

2022.3 (Mar 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.50 【本当の姿】   まだ寒さの残る日もありますが、徐々に暖かい日も増えて春の訪れを感じられる季節になりました。ヨーロッパの冬は寒さが長く厳しいので、陽気が春らしくなってくると街中に薄着の人が急に増えるのにいつも驚かされます。 日本の春は、なんといっても桜の季節ですね。先日、まだ蕾が膨らみかけの上野公園を散策しながら、東京都美術館で開催されている「ドレスデン国立古典絵画館所蔵フェルメールと17世紀オランダ絵画展」に行ってきました。お目当ては、4年の歳月をかけて修復され、第三者によって塗りつぶされていたキューピットが現れた、フェルメールの『窓辺で手紙を読む女』です。 私の大好きな絵画のひとつで、現地ドレスデンで修復前の状態を観賞したことがありましたが、修復された姿を見てかつての印象が完全に覆されました。 電話やインターネットのない時代、手紙は遠くにいる人とつながりの持てる唯一のツールでした。届くまでの時差のことも考えると、殺風景な部屋の窓辺で手紙を読

2022.2 (Feb 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.49 【平和】   ヨーロッパでの生活では、紛争や戦争は、日本で生活している時よりも身近にありました。 同世代のクロアチア人やセルビア人は紛争を経験しています。クロアチアでコンサートに出演した翌日、共演したセルビア人と共に郊外の街を歩きました。終戦から27年が経つ今でも、爆撃を受けた建物がそのまま残っていました。演奏会では、クロアチア人とセルビア人が入り混じり分け隔てなく一つのステージを作り上げましたが、一度街にでると、彼のセルビア訛りのクロアチア語に反応した市民から差別を受けることは日常茶飯事だそうです。当時の出来事や亡くなった家族、友人たちの話、そして現在も続く苦しみの話をしてくれた友人の、深い悲しみを湛えた目は今でも忘れられません。 旧ソ連出身の友人からは、ソ連が崩壊したために着の身着の儘、寒さに震えながら一家で亡命し、食べるものも無い、辛い子供時代の記憶を話聞いたこともあります。 ウクライナ人の友人は、ロシアとの間にいつ何が起こるかわからないからと、他国の国籍を取

2022.1 (Jan 2022)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.48 【期待感】 昨年末、数年ぶりに楽器の駒を付け替えました。 駒と魂柱はヴァイオリンの〝心臓部〟。 0.1ミリ違うだけでも音が変わってしまうデリケートな部分で、駒の交換はいわば大手術です。 日本では夏と冬の湿度差が大きいため、微妙な調整も必要になります。 フランス語でルティエ(luthier)と呼ばれる弦楽器職人に預け、駒を少しだけ高くしてもらいました。 高くすれば速いパッセージは弾きやすくなる一方で、握力が求められます。 新たな駒がアマティに馴染み、どのような音色を響かせてくれるのか。 そんな期待感を抱きながら、2022年を迎えました。   新年の〝弾き初め〟は1月8日、すみだトリフォニーホール(大ホール)にてチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」でした。 言わずと知れた名曲は、かつて私が留学したスイスで生まれました。 2楽章は書き直しを経て完成に至ったもので、当初の2楽章は「なつかしい土地の思い出」という3曲セットの1曲目に姿を変えます。

2021.12 (Dec 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.47 【弾き納め】 2021年も残りわずかとなりました。 期待した新型コロナウイルスの収束は今年も叶わず、日常が戻る日はもう少し先になるのでしょうか。 それでも、昨年に比べると秋以降はホールやサロンでのコンサートの機会に恵まれました。 これも主催者や各会場の関係者の皆様、そして足を運んでくださる方々のお陰と心より感謝致しております。 11月29日はサントリーホールのブルーローズにて、ジュネーヴ国際コンクール(ピアノ部門)優勝の萩原麻未さんと3年ぶりの共演が実現しました。 日本演奏連盟主催の「ベートーヴェンの世界~永遠の愛」で、お届けしたのは「ヴァイオリン・ソナタ第五番『春』」。 最初の一音から春を呼び寄せる萩原さんの素晴らしい音色に魅了されながら、二人の掛け合いを作り上げていく感覚に心が躍りました。 11月30日、12月1日はアジアがテーマの新曲を集めたコンサート「ASIA ー音楽の脈動ー」に出演し、佐原詩音さん作曲の「

2021.11 (Nov 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.46 【世界初演】 日に日に秋が深まり、冬の足音が近づいてくる季節。 この1カ月は、世界初演や新作披露の貴重な経験が重なりました。 10月末には「Gen 和と洋 ー クラシックとモダン」と題したコンサートで箏の山水美樹さん、ピアノの大野理律さんと共演しました。 作曲家の佐原詩音さん、江原大介さんに委嘱した新作を世界初演。 箏とヴァイオリンは和洋でジャンルが異なるものの、音色が馴染んで相性の良さに気付かされます。 生誕100周年のピアソラ「ブエノスアイレスの四季」も、大野さんの編曲でお届けしました。 佐原さん作曲の「Pokhara」は11月30日(火)12月1日(水)の「ASIA ー音楽の脈動ー」(北とぴあ)でも大編成で再演されます。 こちらはアジアがテーマの新曲を集めたコンサートで、ユニークな作品や民俗楽器をお楽しみください。 チェリストとしても活躍する内田麒麟さん作曲作品のコンサートは、山梨で2公演が開催されました。 7月にリリー

2021.10 (Oct 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.45 【異世界】 この秋は〝異世界〟との触れ合いに恵まれています。 世紀を越えて演奏されている作品や、その作曲者の思いに心が震えることもあれば、ジャンルの異なる芸術、歴史ある会場にインスピレーションを得ることもありました。   9月下旬には新宿区西早稲田の「スコットホール」にて正住真智子さんと共演しました。 「100年」のキーワードで繋がったコンサート。 東京藝大の旧奏楽堂を想起させる雰囲気で響きも素晴らしいホールは、100年前に完成した東京都選定の歴史的建造物だそうです。 アンサンブルが難しい没後100年サン=サーンスの「ヴァイオリンソナタ」は、呼吸を合わせて寄り添ってくれる正住さんのピアノが絶妙。 生誕100年のピアソラとともに、会場は大いに盛り上がりました。 今月に入り、4日には藝大時代の同級生によるトリオで演奏しました。 曲間の拍手がなかなか鳴り止まないほど会場が一体となったコンサートでした。 ピアノの齊藤

2021.09 (Sep 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.44 【芸術の秋】 新型コロナウイルス禍の「密」を避けようと、アウトドア人気が高まっているそうです。 9月初旬、富士北麗でユニークな企画に参加しました。 テーマは「焚き火」。 見上げれば星空が広がるキャンプ場で薪をくべ、幻想的な雰囲気の中でチェロの内田麒麟さんと共演しました。 ドローンも操るプロのクリエーターが高性能カメラで収録。 パチパチと音を鳴らしながら燃え上がる炎とバッハやピアソラの融合に、ホールでの演奏とは違ったエネルギーが湧き上がりました。 暑い夏も終わり、いよいよ〝芸術の秋〟到来。 斬新な取り組みの行方も、改めて皆様にご報告できればと思っています。 イメージ映像はこちらをご覧ください。「焚き火と音楽」 9月12日には「100万人のクラシックライブ webコンサート」でヴァイオリンの正岡愛理さん、ピアノの正住真智子さんとショスタコーヴィッチの5つの小品などをお届けしました。 当日は、既に収録した映像を流しながら曲間にzoomでトーク。

2021.08 (Aug 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.43 【アスリートと演奏家】 日本が史上最多のメダルを獲得した東京五輪、そして現在開催されているパラリンピック。次々と流れるメダル獲得のニュースに、嬉しく誇らしい気持ちになります。 みなさんの一番心に残った瞬間は何でしょうか?   私は以前から、選手たちの活躍を文字で読んでも、映像を通して観戦することはありません。 自らのコンクールの経験と重ね合わせて、緊張してしまうからです。   アスリートと演奏家は共通点が多くあるように感じます。 長い間かけて鍛錬してきたものをたった一回、その一瞬で完璧に出し切ることが求められます。 最近話題に上ることの多い、アスリートの「心の健康」。五輪の決勝を途中棄権したバイルス選手の記事を読んで、命を削る想いで臨んでいたコンクールを思い出しました。 さらに、アスリートに故障が付き物のように、演奏家も腱鞘炎などとうまく付き合いながら、パフォーマンスを続けています。長時間練習した後には、クールダウンやマッサージも欠かせません。 &nbs

2021.06 (Jun 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.42 【余韻】 「何と神がかった美しい曲なんだろう…」 6月12日、加藤大樹さん(Pf)との共演で初挑戦した『クロイツェル・ソナタ』の感動と余韻は、まだ消えそうにありません。 作曲したベートーヴェン自身が「コンチェルト(協奏曲)のように」と表現したように、ヴァイオリンとピアノがそれぞれの個性を引き立たせつつ、音が重なりあって広がっていく。 そのメロディは、崇高な王をイメージさせます。 口数は少なくとも一言一言に重みがあり、威圧とは違うオーラにひれ伏してしまうような。 33歳にして、この壮大な世界を書き上げたことに驚きを覚えました。 ヴァイオリニストであれば知らない人はいない、と言われるほどの作品ですが、恥ずかしながら初めて聴いたのは10代で国際コンクールに出場した時でした。 激しく、攻撃的な演奏に「プロコフィエフかショスタコーヴィチだろうか?」が第一印象で、どこか取っつきにくさを感じてしまった部分もありました。 ただ、避けては通れない大曲です。 意を決して正面から取り組

2021.05# (May 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.41 【個性との調和】 ストラディヴァリウス、ガルネリウス、そしてアマティ。 世界三大ヴァイオリンは高名で、時にテレビ番組でも取り上げられますが、銘器だけでは美しい音を奏でることはできません。 脇役のように見えて、実は主役級に重要なのが弓。 「いい弓がなければ、銘器は鳴らせない」とさえ言われています。 一つ一つに個性があり、使いこなすにも慣れが必要。 弾いていくうちに弓に合った筋肉が付いていき、楽器の個性に応じた体も作られていくのです。   普段使っている2本の弓のうち、一つをメンテナンスに出しました。 5日ほど預けなければいけないのが悩みだったのですが、ミュンヘンで予定されていた6月のコンサートがキャンセルとなったことで踏み切れました。 お願いしたのは、初めての「そり直し」。 弓は使用するうちに左右に湾曲することがあり、弾きにくくなったり、思い描く音が出しにくくなったりします。 木製の弓を火であぶって熱を与えながら、少しずつ力を加えて歪みを直す。 匠の技によっ

2021.04 (Apr 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.40 【ひたむきに】 政府が3回目の緊急事態宣言発令を決めた翌日(24日)のこと。 東京都内の演芸場が出した声明が、注目を集めました。 「大衆娯楽である『寄席』は社会生活の維持に必要なものに該当すると判断した」(浅草演芸ホール) 「昔からの伝統芸能で、今もなお途絶えずに伝わっているということは、社会生活の維持に必要なものであると解釈した」(新宿末廣亭) 東京都の無観客開催の要請に「NO」を突き返したのです。   長引くコロナ禍は、社会における文化芸術の意味を問い直しています。 演芸場の判断に対しても、世論の反応はおおむね好意的だったようです。 背景にあるのは、行政への不満や「コロナ疲れ」といった反動だけではないかもしれません。 入念な対策を講じて公演実績を積み重ねてきた主催者や各ホール、サロンの尽力が、音楽や芸術の渇望に応え、文化活動の継続を後押ししてくれているように感じます。   社会の一員であると再認識できるのは、お客様から「感動した」「心が洗わ

2021.03 (Mar 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.39 【儚い桜】 散ればこそ いとど桜は めでたけれ  憂き世になにか 久しかるべき    伊勢物語の中で詠まれた和歌です。   散るからこそ、桜は素晴らしい。この憂い多き世の中で、長く変わらずあるものはない。という意味ですが、音楽もまた、散りゆく儚い桜のようではないでしょうか。 夏から秋にかけて養分を蓄え、寒い冬に耐え、春に美しい花を咲かせますが、あっという間に散りゆく桜。 幼い頃からのトレーニングや、コンサートのために積み重ねる準備や練習も、全ては舞台上でのひと時のため。音が存在できるのは一瞬で、同時に消えてゆきます。力を出し切ったコンサートの後は、やりきった充実感などと同時に、いつも、終わってしまった寂しさも感じます。 儚く消えてしまうからこそ、より美しく感じるのが、生演奏の醍醐味の一つなのではないかと感じます。 一年前のこの季節、新型コロナウィルスの影響で演奏活動が全くできなかった中、手を差し伸べ応援してくださった沢山の方

2021.02 (Feb 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.38 【雪の光】 北緯48度。 そう聞いて、皆さんはどんな景色を思い浮かべるでしょうか。 日本最北端の地、北海道の宗谷岬(同45度)よりもさらに北。 〝極寒〟という言葉が想起される場所に、音楽都市ミュンヘンはあります。 東京では降雪のたびに交通機関への影響がニュースになりますが、ミュンヘンでは除雪車がフル稼働し、 凍結防止剤もすぐに撒かれる手際の良さ。 大きな広場に集められる雪も、堆く高く積まれるとトラックが運んでいきます。 関東出身の私にとって、銀世界が日常の生活は新鮮でした。 日が短いヨーロッパでも雪に反射した光が明るさを生む。そんな経験も、とても印象に残っています。 ドイツ国立のミュンヘン音楽・演劇大学で師事した名ヴァイオリニスト、インゴルフ・トゥルバン先生と12人の弟子が演奏したCD「アンリ・マルトー: 作品集第5集 - 24のカプリース Op.25」が3月中旬に発売開始となります。 大学の大ホールでライブレコーディングしたもので、私は2曲演奏しました。 「フラ

2021.01 (Jan 2021)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.37 【挑戦、その先に】   2021年はピアニスト正住真智子さんとのデュオで始動しました。 ウィーンに所縁のある作曲家の作品を中心に据えたプログラム。 初めて取り組んだニューイヤーコンサートなどで知られるヨハン・シュトラウス「春の声」は、ヴァイオリンのヴィルトゥオーソが際立つ編曲で好評を頂きました。 シューベルトの「ロンド・ブリランテ ロ短調D895」はヴァイオリン、ピアノパート共に難曲のため敬遠していましたが、インゴルフ ・トゥルバン氏が来日公演で演奏した際に「こんなに美しい曲だったのか」と感銘を受けた曲。 温もりと慈愛に満ちた恩師の演奏に触れ、自分も再度取り組もうと決意しました。 嬉しかったのは、終演後にお客様から頂いた「シューベルトは苦手だったけど楽しめました。他の作品も聴いてみようと思えました」との言葉。少しでも魅力を伝えられたのかなと励みになりました。 TOKYO MX(東京メトロポリタンテレビジョン)の番組では、昨

2020.12 (Dec 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.36 【感謝】   全ての人に大きな変化のあった一年。 クラシック音楽界は、生演奏の真価を問われる激動の年となりました。 新型コロナウイルスの影響によるイヴェント自粛要請や緊急事態宣言のために、春から初夏のコンサートは全てキャンセルになってしまいました。 なんとかして演奏を届けるために、インターネットを介した演奏配信の試行錯誤が重ねられ、様々なオンライン・コンサートが行われました。 私自身がふたたび生の演奏を届けることができたのは7月になってからでした。約4ヶ月ぶりにステージに立ち、お客様と直接顔を合わせたとき、向けられた笑顔と温かい拍手に胸が熱くなり、涙が溢れました。 人とのつながりが制限されたことで、皆様にかけていただく応援の言葉が一層心に染み、より強くつながりを感じました。演奏を楽しみにしてくださる皆様のおかげでステージに立てることを、心から感謝しております。 今月は19日と20日の二日間に渡り、美竹清花さろんでコルン

2020.11 (Nov 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.35 【空高く】    澄み切った青空に、美しい稜線の富士山。11月下旬の3連休にコンサートで訪れた山梨は、「秋高馬肥」の故事が浮かんでくる心地良い陽気に恵まれました。南瓜に栗、銀杏、柿、ラ・フランス…。深まりゆく秋は、食欲の刺激という悩みも深めています。  11月1日に東京・表参道の能舞台「銕仙会」で企画した特別公演「うつやか」は、日本舞踊やクラシックバレエとのコラボレーションで好評を頂きました。西洋のクラシック音楽に比べると「和」の芸能は抑揚が少なく、異質な二つを融合するための選曲から一苦労。そこで鍵となったのが、山中千佳子さんと信長貴富さんに委嘱した新曲でした。  信長さんによるヴァイオリンとチェロの二重奏曲は、タイトルが『秋色(しゅうしょく)の階調 ~長唄「菊づくし」をモチーフとして~』。階調はグラデーションの意で「秋から冬へと吹く風の色が変わるようなイメージ」を重ねたそうです。  山中さんが手掛けた『真玄 ~Shi

2020.10 (Oct 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.34 【実りの秋】     短い夏を終えたヨーロッパは秋の気配が一気に深まり、木々も色付いてきました。 落ち葉が舞う遊歩道には栗が転がり、青果店にはマルメロ(西洋かりん)や洋梨が並びます。 日本も残暑は去り、肌寒さを感じ始める秋の入口。 「収穫」「実り」といった言葉が彩る季節のように、充実した日々を送りたい―。 そう思いを新たにしています。 10月21日は東京・渋谷の「美竹清花さろん」にて、ピアニストの實川風さんとシューマン、プロコフィエフにスポットライトを当てたプログラムをお届けしました。 心の病を患ったシューマン、階段から転落する事故の後遺症に苦しんだプロコフィエフ。 2人の作曲家が完成させたヴァイオリン・ソナタ第1番には、苦悩や狂気が漂います。 ただ、闇や死を近くに感じるほど、より一層輝いて見えるのが命や幸せ。 戦乱が渦巻いた時代に翻弄され、もがきながら、それでも生きようとした彼らのエネルギーを作品から感じ取り、演奏に込めました。 チケ

2020.09 (Sep 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.33 【コラボレーション】     ヨーロッパ各地で新型コロナウイルスの感染が再拡大しています。 ドイツで予定されていた9月のコンサートは残念ながら延期に。 フランスでは南部マルセイユなどで飲食店が終日営業停止となり、首都パリでもバーに時短営業が適用されたそうです。 店やレストランに入るときは手指の消毒、屋外ではマスク着用が求められ、欧州の日常風景も様変わり。 1日も早く収束し、クラシックの本場でまた演奏できる日が戻ることを心から願っています。   8月下旬には、後援会メンバーをお招きした第2回の特別コンサートを渋谷・美竹清花さろんにて開催しました。 生の演奏を久しぶりに聴いて頂ける機会。 さらに、今回は目玉として本格的なライブ配信も行いました。 クラシックは音が命。 知識と技術に精通した専門家の協力を仰ぎ、マイクの位置からカメラワーク、配信方法など細かく事前に打ち合わせました。 共演者に応じてアンサンブルの音色も変わるように、映像や音声もコンサートを左

2020.08 (Aug 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.32 【架け橋】     感染の再拡大が懸念される新型コロナウイルスは、音楽の形をも変えつつあります。 徐々に再開し始めたコンサートでは、マスクやマウスシールドを着用しての演奏を初めて経験しました。 息苦しかったり、ズレて気になったり、楽譜が見えにくかったり…。 音楽界も『with コロナ』の新様式を模索中です。   動画やライブ配信の取り組みもその一つ。 東京都の芸術支援事業「アートにエールを!東京プロジェクト」で創作した約5分半の作品が、ついに公開されました。 日本舞踊で師範の尾上博美さん、東京シティ・バレエ団に所属する岡田晃明さんと3人で織り成すコラボレーションは「文化の架け橋」がテーマ。 コロナが世界や社会を分断する中、ジャンルや文化を越えた芸術の繋がり、融合に新たな意味があると考えたからです。 まずは選曲に取り掛かりました。 元々あまり多くはないヴァイオリンの無伴奏曲から4、5曲をピックアップ。 踊り手に動画を送り、2人と

2020.07 (Jul 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.31 【感涙】     それは、初めての感覚でした。 ヴァイオリンを手に舞台に上がり、集まったお客様と久しぶりに顔を合わせた時。 壇上に向けられた笑顔と温かい拍手に、感極まって涙が溢れてきました。 新型コロナウイルスの影響で遠ざかっていたコンサートに、約4カ月ぶりに戻ってきた感慨。同じ空間で音楽を直接届けることができる喜び。 何よりも、この日を待ち望んでくださっていたという思いが客席からストレートに伝わり、心が揺さぶられました。 期せずして涙してしまったことに動揺する自分の前には、もらい泣きでしょうか、目頭を押さえる方々の姿も見えました。   密を避ける万全の対策を講じるため、入場人数を制限し、座席の間隔も空けました。 それでも、会場にはお客様の熱、音楽への思いが満ちていました。 高校生の頃から本格的に演奏活動を続けてきましたが、これほどまでに公演のブランクが空いたことはありません。 演奏の場に恵まれていた過去を夢のように感じながら、感謝の気持ちとともに、ベートーヴェンのソナ

2020.06 (Jun 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.30 【兆し】      新型コロナウイルスに伴う不要不急の外出自粛に、追い打ちをかけるような梅雨空。 じめじめとした重苦しい6月の空気はヴァイオリンにとっても厄介で、1683年イタリア製のニコロ・アマティもカラッとしたヨーロッパの風が恋しそうです。   コンサートの延期や中止が続く中、希望の兆しも見え始めています。 音楽の都、ウィーンでは名門ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が3カ月ぶりの公演を行い、国内でも観客を制限しながら緊急事態宣言の解除後では初となるオーケストラのコンサートが開かれました。 クラシックの調べを、多くの人が待ちわびているのでしょう。   ピアニストの實川風さんと渋谷・美竹清花さろんで共演する10月のデュオリサイタルは、チケット発売日に売り切れとなりました。 何か月も演奏の場を離れている悲しさと、先行きの見通せない不安は拭えませんが、また演奏を聴きたいと思ってもらえることが何よりの心の支えになっています。   コンサート再開

2020.05 (May 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.29 【新たな挑戦】     テレワークにオンライン飲み会、スマホやクレジットカードの非接触型決済。 終息が見えない新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の生活に様々な変化をもたらしています。   コンサートの中止や延期が続く音楽家にとっても、それは同じ。  先日、人生で初めてリモートでピアノとのデュオを収録し、ツイッターで公開しました。(https://twitter.com/MaiSuzuki_vn/status/1261322111584366592) 「おうちでパデレフスキ」の企画で弾いたのは、ヴァイオリンソナタの第一楽章。  若くして妻と死別し、音楽への献身を決意したイグナツィ・パデレフスキの作品です。 政界に進出してポーランドの初代首相を務めたことでも知られる彼のメロディは、悲しみや苦しみを乗り越えようとするエネルギーに溢れています。 まるで自分を奮い立たせるような音楽に、コロナ禍で窮屈な時間が続く現状も重ね合わせました。   ホールや

2020.04 (Apr 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.28 【心の支え】      世界各地で猛威を振るう新型コロナウイルス。  大学卒業後に拠点を置いたドイツは死者が5千人を超え、スイスも1500人に達しました。  経済活動は制限され、見えないウイルスという敵におびえる日々。  フリーランスの音楽家も容赦なく打撃を受けています。   3-4月は公開、非公開含め10公演ものコンサートが中止や延期に追い込まれました。  来月以降も、5/5と5/7に東京と福岡で予定していたTGS(Tokyo Geidai Strings=東京藝大同期による弦楽アンサンブル)の定期公演が中止となり、5/10の「三大銘器聴き比べコンサート」(東京・赤坂)は無期限延期が決まりました。   この2カ月で唯一演奏の機会に恵まれたのが、3/22に渋谷イープラスカフェで片山柊さん(Pf)と共演した「サンデーブランチクラシック」。  デュオは2度目ですが、オープンなコンサートでは初めてでした。

2020.03 (Mar 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.27 【恩師との再会】       ミュンヘンから電車で約2時間。冷たい雨が石畳を濡らすザルツブルクを2月中旬に訪れました。 2014年から2年間、モーツァルテウム大学に通った懐かしの場所。 久しぶりに眺める景色、街の匂いは当時と変わらず、薄れていた記憶も鮮明に蘇ります。 ただ、オーストリアでの思い出は楽しいものばかりではありません。 雨の多い気候、よそ者を必ずしも温かく迎えてくれない文化。コンクールが続く日々も必死でした。 あれから約5年。 多忙な中、時間をつくってくれた恩師ピエール・アモイヤルとの再会も、初めは緊張でぎこちなかったかもしれません。 それでも、かつての失敗談や互いの近況を話し合ううちに自然と笑みが浮かんできました。 苦しさを味わった時間も無駄ではなかった―。 夜の車窓から見慣れた街の灯りが遠ざかる時、郷愁に似た不思議な思いが芽生えていました。   ミュンヘンでは2人のピアニストと共演を重ねました。 柏本佳央理さんとは、モーツァルトやベートーベンなど

2020.02 (Feb 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.26 【原点と決意】     2020年は、東京藝大の同期で編成するTGS(Tokyo Geidai Strings)の新春コンサートで幕を開けました。  2日連続の公演でコンサートミストレスを務め、初日は藝高、藝大と計7年間通った上野の森の旧奏楽堂で演奏。  蕨市立文化ホールくるるでの翌日は、ソロでヴィヴァルディの「四季」、長尾春花さんとバッハの「2台のヴァイオリンのためのコンチェルト」を披露しました。  このコンチェルトを弾くのは幼少期以来。新年に原点を思い出す舞台となりました。  同級生ならではの和気藹々とした雰囲気とアンサンブル力は、全員が一体となったエネルギーを生み出します。  5月5日には東京、同8日には福岡にて再びソリストを務める予定で、今から再演が楽しみです。   1月26日には「鈴木舞後援会」発足記念コンサートを開催し、モーツァルトやラヴェル、シューベルトの作品をお届けしました。  設立から1カ月余

2020.01 (Jan 2020)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.25 【明けましておめでとうございます】       新年明けましておめでとうございます。 旧年中は皆様のご支援のお陰で、大変実り多い1年となりました。 本年もコンサートでお目にかかれますこと、楽しみにしております。   令和元年は、コンサートやイベントでの演奏、アウトリーチと師走まで駆け抜けました。 先月は、パリ在住のピアニスト、鈴木隆太郎さんとのデュオは会場が超満員に。 ホールに入りきれずにロビーでお聴き頂く方も出るほどの大盛況で、ドビュッシーなどフランスの音楽を情熱たっぷりにお届けしました。   埼玉県内の学校コンサートではピアニストの片山柊さんと初共演。 3月22日には渋谷イープラスカフェで再び共演する予定です。   渋谷の美竹清花さろんでは、尾崎未空さん(Pf)尾池亜美さん(Vn)安達真理さん(Va)伊東裕さん(Vc)とブラームスのクインテットをメーンにしたコンサートを行いました。 ローザンヌ(スイス)やミュンヘン(ドイツ)でつながりが

2019.12 (Dec 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.24 【冬の足音】     落ち葉で黄色に染まった散歩道。思わず足を止めたくなるクリスマスマーケットの出店。 日々厳しさを増す寒さの中でイルミネーションはきらめき、グリューヴァイン(ホットワイン)の香りがどこからともなく漂ってきます。 秋が深まり、冬の足音が聞こえてきた11月後半は、ミュンヘンで5つの公演機会を頂きました。   オーストリアの作曲家だけでプログラムを組んだリサイタルでは、シューベルトの「華麗なるロンド」を初披露。 さらにモーツァルトとシューベルトのソナタ、クライスラーの小品と盛りだくさんでお届けしました。 シューベルトのソナタは10月に日本でも演奏しましたが、異なる共演者とまた一味違うアプローチになり、新たな世界が広がったように感じました。 クライスラーはサロン向けのユーモアたっぷりな作品で、音楽を通して聴き手とダイレクトにキャッチボールをしている感覚に溢れます。 客席との距離はぐっと近づき、最後はたくさんの温かい拍手。表現が確かに伝わったと、実感を得ることが

2019.11 (Nov 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.23 【〝怒濤〟の1か月半】     10月から11月初旬は〝怒濤〟という言葉がぴったりな1カ月半でした。   ヴァフタン・カヒッゼ(ジョージア)指揮による甲府市交響楽団との「ヴァイオリン協奏曲」(ブラームス)初挑戦をはじめ、室内楽やデュオ、ドッペルコンチェルトなど実に24公演。体力的にも精神的にもハードな秋は、同時に実りの多い時間となりました。   音楽の奥深さも感じました。大きなホールで弾くこともあれば、アットホームなサロンが会場となることも。楽器の調子、残響、集まって頂いたお客さんの反応、共演者からのレスポンスは、その時その時で違います。2日連続で同じ曲目、会場、共演者でも、湧いてくるインスピレーションは様々。そんな新しい発見と刺激を得られたのも、多くの演奏機会を頂けたからだと感謝しています。   ブラームスのコンチェルトは、まるで交響曲のようでオーケストラとの絡みが多い作品でした。リハーサルは本番前日の1回だけでしたが、オーケストラも私も集中を高め

2019.10 (Oct 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.22 【オクトーバーフェスト】   オクトーバーフェストで賑わうミュンヘン。東京ドーム9個分にもなる広大な敷地内にはビアホールが立ち並び、民族衣装のディアンドルやレダーホーゼに身を包んで、音楽に合わせて踊り狂う男女で溢れかえっています。冬がもうそこまで迫る寒さの中、会場は熱気に充ち満ちていました。 1リットルの大きなジョッキに注がれたビールはアルコール度数が少し高めで、あちらこちらで「Prost (乾杯)!」の掛け声が響きます。ビアホールのほかにも、観覧車やお化け屋敷、そして泥酔に追い打ちを掛けるジェットコースターなど絶叫系の乗り物も充実。ネオンが夜空を照らし、巨大な移動遊園地のような空間でした。 先月末はミュンヘンにて3つのコンサートに出演。一曲弾き終わるごとに客席から漏れる感嘆やストレートな反応を感じることができ、心温まる舞台となりました。   6日はラジオ、NHK-FMの「リサイタル・パッシオ」(午後8時20-55分)に出演します。ピアニストの齊藤一也さんと、今パッシオ(情

2019.9 (Sep 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.21 【駆け抜けた葉月】   日本の夏を過ごすのは、ヨーロッパに渡って以来8年ぶり。蒸し暑さとの戦いでもあった8月は、公開と非公開を合わせて10公演以上もの演奏の機会に恵まれ、忙しくも充実した時間となりました。いただいた沢山のご縁に感謝しております。 葉月のコンサートは、實川風さん(pf)とのデュオから始まりました。メインに据えたのは、ブラームスが友人の相次ぐ訃報に触れた後に書き上げた「ヴァイオリン・ソナタ第3番」。曲が生まれた地、スイスのトゥーン湖を7月に訪れ、孤独や悲しみ、不安が込められた作品のイメージを膨らませて臨んだ初挑戦でした。 息つく暇なく駆け抜けた1カ月で特に印象深かったのは、京都の能舞台でのコンサートです。橋掛かりから舞台上に進み入ると、ピリリと張り詰めた神聖な空気を感じ、一気に身が引き締まります。香しい檜造りの会場が弦楽器の音を豊かに響かせ、心地の良い音響空間でした。 先月はレコーディングも行いました。チェリスト内田麒麟さんの新曲「弦楽四重奏」は、どのパートも非常

2019.8 (Aug 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.20 【ブラームスの住んだトゥーン】   いよいよ東京も梅雨明けですね!暑い日が続きますが、ヨーロッパも今夏は強烈な熱波に襲われています。日本と違って、冷房が完備されていない家がほとんど。空気が乾燥していて朝晩は気温が下がるものの、日中の暑さ対策は死活問題です。   7月11日は、中学生以来となる銀座・王子ホールでの演奏でした。同年代の素晴らしい共演者達と様々な編成でお届けした「フランス室内楽の夕べ」。ルクーやフランク、イザイの作品からのみならず、ホールの豊かで美しい響きにもインスパイアされ、リハーサルから音や演奏がどんどん変化していく、刺激的で濃密な時間でした。 本番ではお客様が集中して耳を傾けてくださっているのがステージ上に伝わり、お腹の底から湧き上がる音楽に身を任せながらのコンサートとなりました。 あるお客様から「時間が止まり、異世界に引き込まれたような感覚になった」との感想をいただきました。私もかつて聴きに行ったコンサートで同じ感覚を体感した記憶が残っています。「こんな音楽の

2019.7 (Jul 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.19 【梅雨と室内楽】   梅雨真っ盛り。 久しぶりの日本の梅雨は、楽器にとっても苦行といえるシーズンです。 湿気で木が膨張し、接着剤が緩くなって隙間が開く。弓の毛は弾力を失い、松脂はベトベトに…。 状態によって音の出方が変わるので、日々楽器のご機嫌を伺いながらの演奏です。   先月最初の公演は、ピアニストの正住真智子さんと静岡県の小学校でコンサートでした。トークの間は元気いっぱいに盛り上がっていた子供達も、演奏が始まった瞬間に水を打ったように静まり、音楽に集中して耳を傾けてくれました。 弦楽器の室内楽に多く取り組んだ月でもありました。チェロとのデュオ、そしてプライベートの演奏会も含めると三つの弦楽四重奏のコンサート。 6月最後の演奏となった渋谷・イープラスカフェでのアレグロカルテットは、それぞれ個性豊かなメンバーの音楽が掛け算となって重なり、本番ではより一層皆で燃え上がりました。 アンコールには、メンバーのチェリスト、内田麒麟さんの作曲した弦楽四重奏より第2楽章を初演しました。

2019.6 (Jun 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.18 【サンデーブランチクラシック】   ヨーロッパは夏の訪れを感じる季節になりました。日中の強い日差しは、肌がチリチリと焼ける感覚を覚えるほどです。 先月のコンチェルティーナ銀座でのリサイタルは、民族音楽をテーマに、ドヴォルザーク、シューマン、グリーグの隠れた名曲を演奏。同じ会場、同じプログラムで1日2回の公演でしたが、湧き上がる曲へのインスピレーションや、ピアニストの實川風さんと紡ぐ対話が同じになることはありません。ライブ演奏は一期一会だということを改めて実感しました。 さらに、お客様との距離が近い空間での演奏は、音楽を直接手渡しするような感覚で、反応もよりダイレクトに伝わってきます。会場いっぱいに広がった皆様の笑顔に、大変勇気付けられるコンサートでした。   今月はサンデーブランチクラシックにて2公演。 23日はチェリストの内田麒麟さんと、音楽のバイブルであるバッハ、ユーモア溢れるラヴェルのデュオ、そして超絶技巧のピアソラのグランタンゴのプログラム。 30日は1年ぶりのアレグロ

2019.5 (May 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.17 【美しき五月】   モーツァルトの”春への憧れ”、シューマンの”美しき五月”、フォーレの”春”・・・ 様々な歌曲で春の喜びが歌われる5月がやってきました。   新緑が勢いよく芽吹く季節。川や湖に泳ぐカモの後を雛達が懸命に追う姿は微笑ましく、そこここに新しい命が息づいているのを感じます。 マーケットにはヨーロッパならではの春の食材、白アスパラやルバーブが並び、公園はバイエルン地方の伝統衣装を着て、ビール瓶を片手に春の陽気を楽しむ人々で賑わいます。 ドイツ人によく「あなたの月だね!」と言われるのは、ドイツ語で5月を"Mai”というから。発音もマイで、その上私は5月生まれ。 そんなこともあり、花の香りが街に溢れる5月はヨーロッパで一番好きな月です。   先月のミュンヘンでのリサイタルは、フランクやベートーヴェンのスプリングソナタなど、季節感のある華やかなプログラム。音楽の表情に合わせて、聴いてくださっている客席の空気も一喜一憂している様子がこちらにも伝わる、濃い時間でした。

2019.4 (Apr 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.16 【サマータイム開始】    ヨーロッパはサマータイムが始まりました。雪の日、暖かい日を繰り返しながら少しずつ、着実にミュンヘンも春に向かっています。 ミュンヘン五大陸博物館での生田流箏曲・地歌演奏家の米川敏子さんとの共演は、大変印象深いものとなりました。 満員のミュンヘンのお客様は、珍しい日本の音楽に、緊張感さえ漂うほど集中して耳を傾け、終演後には楽器や邦楽について沢山の質問をいただきました。 邦楽は、洋楽以上に奏者の人間性が演奏にあぶり出されるように感じました。米川敏子さんの芯の通った歌声と迷いのない音運び。そして、亀川真理さんの溌剌とした軽やかな三絃の響きから温かいお人柄が伝わり、胸にじわりと染み入りました。 共演した曲は、バイオリンで演奏できるよう西洋の五線譜に書き直されたものでしたが、楽譜には書き表せないような邦楽独特のリズムやテンポ感、節回しがあり、お箏の演奏に馴染むよう、試行錯誤を重ねました。  翌週はパリでチェリストのグレイ理沙さんと初共演。ツィゴイネ

2019.3 (Mar 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.15 【謝肉祭のシーズン】     ヨーロッパはカーニバルのシーズン真っ只中。ミュンヘンでも仮装をした人が目立ちます。カーニバルは5日の火曜日に佳境を迎え、翌日の灰の水曜日からイースターまでは断食の期間。甘いものを断ったり、動画サイトの利用を制限するなんて人も。 ミュンヘンの街中はようやく残っていた雪が溶け切り、ベランダに遊びに来るリスからも春を感じられます。   先月は東京で2つのコンサートがありました。 ピアニスト梅村知世さんと共演した朝活コンサートは、弱音も豊かに拾ってくれる響きの良い浜離宮朝日ホールで、まるで楽器も喜んでいるかのよう。リハーサルから本番にかけてどんどん音色が変わっていき、嬉しい驚きでした。 渋谷イープラスカフェには、ヴィオラの安達真理さんとの初デュオで再登場。 様々なキャラクターの充実したプログラムの合間に、バレンタインチョコじゃんけん大会を挟み、大いに盛り上がりました。 今月はミュンヘンの五大陸博物館で生田流箏曲・地歌演奏家の米川敏子さんと共演

2019.2 (Feb 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.14 【「愛、恋、春」そしてヴィオラとのデュオ】      雪の結晶がふわふわキラキラ舞うミュンヘン。雪が積もると街の中も一気に明るくなります。 2019年はピアニスト尾崎未空さんと満席の東京庭園美術館でのコンサートで幕開け。終演後にそのまま飛行機に乗り、ミュンヘンでの卒業リサイタルでパガニーニ等の超絶技巧曲を演奏、そしてハイドンとメンデルスゾーンの弦楽四重奏をホームコンサートで演奏してきました。 メンデルスゾーンが18歳で書いた弦楽四重奏第2番は、美しくドラマティックな作品。彼の天才ぶりには畏怖の念を抱きます。日本でもいつか再演したいと思う傑作です。 さて、今月の都内でのコンサートは8日と10日。  8日は浜離宮朝日ホールで面白いコンサートイベント。 「朝活コンサート」と題し、10:30から小沼純一さんによる演奏を交えたプレセミナー、11:30からピアニストの梅村知世さんと「愛、恋、春」をテーマに、朝に相応しい爽やかなプログラムのリサイタルお聞きいただきます

2019.1 (Jan 2019)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.13 【明けましておめでとうございます!】     昨年も温かい応援と共にコンサートにお運びいただき、どうもありがとうございました。 おかげさまで、ニュースレター配信もスタートから1年が経ちました。 演奏を通して皆様にご恩返しができるよう、精進して参ります。 そして今年も新しいレパートリーにどんどん挑戦していきます!   今年最初の日本でのコンサートは1/19、東京庭園美術館にて、共にミュンヘンを拠点とするピアニスト、尾崎未空さんとデュオ。 妻への愛がこもったシューマンのロマンス、北欧の熱い作曲家グリーグが祖国愛を歌うヴァイオリン・ソナタ、薔薇の花が香るような華麗なサンサーンスのワルツ・カプリス、というプログラムです。 2/8は浜離宮朝日ホールで「春、愛、恋」がテーマの朝活コンサート。2/10は渋谷イープラスカフェにて、初めてとなるヴィオラとのデュオプログラム。 皆様に会場でお会いできますのを楽しみにしております。   一面雪景色のミュンヘンから皆様に感謝の気持ち

2018.12 (Dec 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.12 【今年もありがとうございました!】     あっという間に師走半ばを過ぎ、今年もあとわずか。皆様にとってどんな一年でしたでしょうか? 今回11月から12月の帰国も、充実したものとなりました。 ミュンヘンでのトリオのコンサートの後すぐに帰国し、オーストリア、フランス音楽のプログラムを東京と山梨で演奏。レクチャーコンサートや、三善晃等の日本人の作品を取り上げたコンサートを経て、美竹清花さろんでのブラームスや、日本初演のシヴォリを含めた華やかなオペラの超絶技巧の数々をプログラムに据えたリサイタル(おかげさまで満席でした!)で、今年最後の都内のコンサートを終えました。 クリスマスは長野県宮田で演奏し、新たな年はドイツで迎えます。 今年も沢山の方にコンサートにお運びいただき、皆様の力強く温かい応援に支えられて一年を過ごすことができ、心からの感謝の気持ちでいっぱいです。 どうぞ楽しいクリスマスと良いお年をお迎えください。

2018.11 (Nov 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.11 【オペラ珠玉の名曲たち】     ヨーロッパはサマータイムが終わり、あっという間に冬の空気に。皆さまお元気でお過ごしでしょうか。 10月のコンサートは、ピアノとのデュオに加えて、お箏とのデュオ、オーケストラとコンチェルトの共演と、バラエティ豊かなものとなりました。 コンチェルトでは、友人のドレス職人さんに作っていただいた、心のこもったドレスをお披露目。 コンサート当日の朝に届いた純白のドレスには繊細な刺繍やビーズがふんだんに施され、遠くから見ても近くで見ても美しく、まさにメンデルスゾーンにぴったりの装いとなりました。 今月はミュンヘンでピアノトリオのコンサートが予定されており、それが終わるとすぐに、また新しいレパートリーを携えて日本に帰国します。 ファウスト、ロミオとジュリエット、カルメン、タンクレーディ…愛を語る華やかなオペラの名曲たち。 ロッシーニとグノー、二人のオペラ作曲家がそれぞれ没後150年、生誕200年を迎えたのを記念して組んだプログラムは、パガニーニやその弟子

2018.10 (Oct 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.10 【2018年秋の国内ツアー進行中!】   今回の国内公演は、山形にてピアニスト萩原麻未さんとの初共演。熱く燃え上がるようなフランクのソナタでスタートしました。 続く齊藤一也さんとのデュオツアーでは山梨、東京、名古屋、滋賀を周り、インスピレーションを共有しながら、音楽の喜びを感じる充実した本番を重ねてきました。   日に日に秋も深まり、いよいよ残り3公演です。 今月3日は戸越八幡神社で巫女舞とのコラボレーション。箏奏者の山水美樹さんとのデュオで、クラシックのみならず宮城道雄などの日本の曲も演奏します。 6日は練馬文化センターにて、オーケストラMIRAIとメンデルスゾーンのコンチェルト。私が初めてオケと演奏した思い入れの深い曲です。「情熱的に」と指示のある美しい旋律は、儚さをもたたえていて、歳を重ね、本番を重ねるたびに、味わいをより濃く感じるようになりました。 ソリスト、指揮者、オーケストラがエネルギーのキャッチボールをしながら作り上げる協奏曲。ライブに是非お運びください! 本

2018.09 (Oct 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.9 【秋のコンサートシーズン到来】   ミュンヘンはあっという間に秋が深まり、今もぬくぬくと厚着をしてパソコンに向かっています。 今月は様々な場所でコンサートに出演します。最初のコンサートは、16日に山形でピアニスト萩原麻未さんと初共演。指揮者の山田和樹さんのトークとピアノ演奏もお楽しみに! 翌週からは信頼するピアニスト、齊藤一也さんと、山梨、東京、名古屋、滋賀のコンサートツアーが待っています。メインは二人で意気投合した、サン=サーンスのソナタ。ピアノ、バイオリン共に超絶技巧のロマンチックで華やかな曲です。 東京公演、イープラスカフェのご予約はこちらから。 6月のアレグロカルテットのコンサートの様子、インタビューも公開されています。こちらから、お読みいただけましたら嬉しいです。 来月10/6は練馬文化センターにて、オーケストラをバックにメンデルスゾーンのコンチェルト。指揮者とオーケストラとソリストの三者で音楽を創り上げるのは、ワクワクする大好きな作業です。 ここでは小、中学校の同級生のドレス

2018.08 (Aug 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.8 【新たな出会い】   この七月は初めてのレパートリーにチャレンジしました。  長野で演奏したベートーヴェン七重奏曲。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、クラリネット、ファゴット、ホルン、という一風変わった編成による室内楽曲ですが、バイオリンパートがとてつもなく難しい。まるでコンチェルトのようなテクニックが必要で、コンサート直前には受験生のようにさらいました。  ここでN響、読響や、ドイツのトップオーケストラで活躍されてきた大先輩方と音楽づくりをすることができ、大きな勉強になりました。ベテランの奏者とご一緒することで、アンサンブルの奥義の一端に触れた思いでした。  もう一つは、いつもお世話になっている美竹清花サロンで、幼少の頃から大好きだったベルギーの隠れた名作、ルクーのヴァイオリンソナタの初挑戦でした。  循環形式と言って、一つのメロディーが何度も姿を変えて登場するのですが、少しずつ移ろいゆく表情が万華鏡のようで、たまらなく美しい曲です。こ

2018.07 (Jul 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.7 【ロマンティシズム溢れるプログラム】   帰国から10日程が経ち、ようやく東京の暑さに慣れてきました。あっという間に梅雨が明け、いよいよ夏本番ですね。 6月はバラエティーに富んだ公演に出演しました。 個性豊かでエネルギー溢れるカルテットはアンコールまで大いに盛り上がり、日本人作曲家特集のリサイタルでは、作曲家自らに曲への思いを語っていただきました。そしてプライベートのレクチャーコンサートはバッハから現代までのクラシック音楽の変化を、時代を追って聴き比べていただきました。 今月は、東京と長野でコンサートに出演します。 21日(長野県 )22日(東京)にピアニストの渡邊智道さんとリサイタル。 ベルギーの作曲家フランクの、人生を語るようなドラマチックなソナタ。フランクの最後の弟子であった夭折の天才、ルクーのソナタは、ロマンチックで情熱的。 それに加えてサラサーテの「カルメン幻想曲」等、暑さをも吹き飛ばすような、ラテンの血が踊るプログラムです。 今週の長野県宮田でのコンサートは、室内楽であり

2018.06 (Jun 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.6 【ヨーロッパ式の誕生日の祝い方】   ドイツは初夏の陽気。21時頃まで明るく、爽やかな風が気持ちの良い季節です。 先週、五月の末にミュンヘンで誕生日を迎えました。 私の名前 "Mai" は、ドイツ語で五月の意味で、読み方も一緒。日本で名前に生まれ月を入れることは珍しくないですが、こちらでは多くない様で、ドイツ人にいつも驚かれます。 ヨーロッパでの誕生日は、お世話になっている人に日頃の感謝を伝える日。誕生日を迎える本人が、友人達をご招待、おもてなしする習慣があります。 私も今年はささやかな手料理で近しい学友達をもてなし、お祝いしてもらいました。 いつも応援してくださる皆様への感謝の気持ちを新たに、音楽も、そして人間も深めて行けるよう、新しい一年も日々精進して参ります。 さて、次回の日本帰国も迫って参りました。 6月23日のリサイタルは、日本人作曲家特集。巨匠、三善晃と芥川也寸志の曲とともに、現代に活躍する若手作曲家の曲を演奏致します。 聴きやすい曲ばかり。クラシック音楽の「和

2018.05 (Apr 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.5 【春の日本滞在後半】 あっという間に初夏のような陽気になりました。いよいよゴールデンウィークですね。もうご予定はお決まりでしょうか。 明日28日は、OTTAVA インターネットラジオに生出演します。出演は15時台の予定。どのような内容になるのか、私も楽しみです。 是非お聞きください。  -OTTAVA      -番組の聴き方 (昨年12月に出演したラジオ”Memories & Discoveries”のアーカイブをお聴きになりたいかたはお問い合わせください。お送りいたします。) 5月3日は河口湖畔のオルゴールの森美術館、そして翌4日は東京ビル TOKIAで演奏。連休最終日の6日は、現代音楽のコンサートに出演します。 そして今回の帰国の目玉である、第一生命ホールでのリサイタルは5月15日。CDに収録したプーランクのソナタをメインに、ツィガーヌや人気のタイスの瞑想曲などを、山野雄大さんの解説を交えてお届けします。 お誘い合わせの上、お越しいただけました

2018.04 (Apr 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.4 【ベートーヴェンで感じる"春"】 巨大な白アスパラ、シュパーゲルの季節になりました。皮をむいて茹で、バターと卵黄を混ぜたソースをかけていただきます。 ドイツの春の楽しみの一つです。 先月は印象深い演奏会が2つありました。一つは末吉陽子さんによるライブペインティングとの競演。演奏曲や解説にインスピレーションを受けたとの事、刻々と変化し、色づき命が吹き込まれてゆくさまは圧巻でした。 もう一つはヴァイオリンの聖地、イタリアはクレモナでのコンサート。私のパートナーである楽器、アマティの生まれ故郷です。 アマティの弟子であったストラディヴァリウスの名を冠した博物館。そこに展示されている、同じくアマティの弟子のグァルネリ・デルジェスが製作したPrince Doriaをコンサートで演奏しました。 妖艶で力強い低音に、輝かしい高音。まるで楽器に意思があるかのような音色は病みつきになりそうでした。 今月の帰国は長く、一ヶ月ほど日本に滞在します。 最初のコンサートは22日、駒込のアットホームなサロンで、この季節に

2018.03 (Mar 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.3 【春の気配】 ひとときのミュンヘン。花粉の心配なく、思いっきり外で深呼吸ができる幸せ。 こちらはまだまだ寒いですが、スーパーに並ぶ野菜や果物、柔らかくなって来た陽射しから、春が近づているのを感じます。 今月末にはサマータイムが始まり、ヨーロッパの長い冬も終わりを迎えます。 来週末は、東京・春・音楽祭 の街角コンサートに出演します。 3月16日は大手町、17日は上野駅で、福原彰美さんとトークを交えて様々な名曲を演奏。上野駅では、末吉陽子さんのライブペインティングと協演します。 両日とも無料公演ですので、お気軽にお立ち寄りください。 少し先ですが、5月15日に晴海の第一生命ホールで實川風さんとリサイタルをさせていただきます。それに先立ち、web上にインタビューが掲載されました。演奏に対する想いから高校生時代のプライベートな思い出話まで、山野雄大さんの聞き手で充実の内容となっております。 ▶︎ アーティスト・インタビュー 鈴木舞、實川風 また、3月18日発行の無料音楽雑誌「ぶらあ

2018.02 (Jan 2018)
ヴァイオリニスト 鈴木舞 ニュースレター Vol.2 【寒い冬に熱い音楽を!】 東京は48年ぶりの大寒波だそうですね。皆さまお風邪など召されていらっしゃいませんでしょうか。 次回の帰国の折、2/25(日)には極寒の地ロシアの作曲家、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏します。 私が3年間学んだローザンヌ音楽院のクラスメイトは、半数以上がロシア人でした。 ロシア人というと無愛想で笑わない、というイメージがありますが、私が知るロシア人は、困った時に最初に手を差し伸べてくれる友人たちでした。 熱い心を持ち、仲良くなるとよく笑い、そして信じられないくらいよく飲み、どんと構えて自分の人生を受け入れるファタリスト。なんて暖かくって強い人達なのでしょう! チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲からは、そんなロシアの国民性や雄大な風景が感じられます。 3/2(金)は、ヴァイオリン、チェロ、ピアノによる室内楽のコンサート。 昨年12月にピアノ五重奏を共演したピアニストの尾崎未空さん、イギリスを拠点に世界で活躍するチェリスト、伊藤悠貴さんと共に、ハイドンのピ

2018.01.07 (Jan 2018)
明けましておめでとうございます。 ヴァイオリニストの鈴木舞です。 昨年は念願のCDデビューを果たし、 そして沢山の素晴らしい出会いがありました。 このご縁、そして応援くださる皆様に 感謝の気持でいっぱいです。 聴いてくださる方があって はじめて演奏家でいられます。 2018年も皆様とのご縁を大切に 日々精進してまいります。 新しい年が素晴らしい一 年になりますよう 皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。 今年もどうぞよろしくお願いいたします。 皆様お元気でいらっしゃいますでしょうか。 本年より、これまでにお目にかかりお名刺をいただいた皆様に、ニュースレターを送らせていただきます。 コンサートのご案内や近況などをお届けします。 ご不要の方は、お手数ですがメール下部よりお手続きをお願い致します。 その他コンサートなどのお問い合わせは、このメールにご返信ください。 【スリリングなドイツのニューイヤー】 4年ぶりでしょうか。久しぶりに日本で年末年始を過ごしました。目にも舌にも美味しいおせち料理と、優しい




Mai Suzuki violinist
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